そもそも出版自体が対象外の可能性も……軽減税率から「有害図書」排除構想の動向
#本 #出版
来年10月にも予定されている消費税率10%への引き上げに向け、再び、軽減税率の対象品目をめぐる議論が活発になっている。
軽減税率とは、生活必需品などの消費税の額を下げる制度。日本においては、消費税の10%への引き上げにあたって低所得者への配慮から「酒類及び外食を除く飲食料品と定期購読契約が締結された週2回以上発行される新聞」が政府の方針とされている。
この制度の中で、対象とされるかどうか微妙な立場にあるのが、書籍・雑誌である。これまで新聞・出版業界では一貫して新聞での適用範囲の拡大と書籍・雑誌への適用を求めてロビー活動を行ってきた。
2016年度与党税制改正大綱では、週2回以上宅配される新聞は税率8%に据え置く方針を示したが、それ以外の新聞は対象外。さらに、書籍・雑誌に関しては「有害図書排除の仕組みの構築状況等を総合的に勘案しつつ、引き続き検討」とされた。
つまり、出版業界に対してはエロやバイオレンスなど「有害」な表現を扱う書籍・雑誌は対象外にしろと迫られているのである。
これに対して、動きがあったのが6月11日に開催された活字文化議員連盟の総会。この席上で、書籍出版協会の相賀昌宏理事長(小学館)が、流通コードを管理する自主管理団体の下に第三者委員会を設置し、有害図書を排除するシステムをつくる意志があることを示したのである。
「文化通信」6月18日号では出版業界で構想されている「有害図書排除の仕組み」を次のように解説している。
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倫理基準を制定し、軽減税率の対象になるかどうかを出版社が基準に照らし合わせて自主的に判断したうえで、対象となる書籍・雑誌に「出版倫理コード(仮称)」を付与して見分ける方法を検討。
この「出版倫理コード(仮称)」を管理・付与する組織として「一般社団法人出版倫理コード管理機構」の設立に向けて準備を進めている。
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こうした動きを受けて、電子書籍研究の第一人者でもある植村八潮専修大学文学部教授は、Yahoo!個人に「出版界は『軽減税率適用』のために『表現の自由』を手放すのか?(掲載先URL)」を投稿。
ここでは「政府の求めに応じ、軽減税率適用と引き替えに、出版界は「有害図書」を排除するというのである」とし「「有害図書」を分ける外形的要素はなく、恣意的な判断によって拡大しかねないのだ。それが、出版界のさらなる萎縮につながると思うのは、杞憂だろうか」と危機感を示している。
■雑誌報道に「文化」はない?
植村教授の指摘にあるように「表現の自由」に多大な影響を及ぼしかねない出版業界の構想。これは、本当に実現してしまうのか。
関係者に話を聞いたところ「出版倫理コード(仮称)」の検討はあると認めた上で、次のように話す。
「大前提として、出版が軽減税率の対象となるかも危うい。とりわけ自民党内部では出版を対象にすることに否定的な意見が強いのです」
出版の中で「有害図書」を軽減税率の対象外とするロジックは、ジャンルが本来的な意味合いにおいて“文化”ではないから。とりわけエロに関しては、フランスやイタリアでも対象外となっている。これは「ポルノはオナニーの補助具」という観点から来ているようだ。
そして、自民党内では「スキャンダルを扱う週刊誌や、グラビアを掲載しているような雑誌は文化的ではない」という意見も根強いのだ。
「こうした状況ですから、倫理コードうんぬんの前に、そもそも出版が軽減税率の対象にならないのではないかと思っています」(同)
さらに、新聞・出版業界の要望がすべて通ったとしても切り分けは困難なのではないかと見られている。
「出版もそうですが、新聞はさらに切り分けが難しいでしょう。スポーツ紙や『聖教新聞』や『赤旗』も、軽減税率の対象にするかどうかも検討しなくてはならないのです」(同)
以前、軽減税率の議論が盛り上がった際には、大手出版社を中心とする日本雑誌協会加盟社の出版物は対象で、アダルト系中心の出版倫理懇話会の出版物は対象外にされると危惧する声もあったが、実際にはその線引きも不可能とみてよい。
何より、軽減税率が適用された程度で、出版業界の右肩下がりが止まるとは誰も思ってはいない。
(文=昼間たかし)
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