人間は何かに依存せずには生きていけないのか? ウディ・アレンの不倫ドラマ『女と男の観覧車』
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若い頃は女優を目指していたジニーだが、今では生活に疲れた中年女になってしまったことを自覚している。ビーチで監視員のバイトをしている作家志望の年下の男ミッキー(ジャスティン・ティンバーレイク)と知り合い、彼との情事にたちまち溺れていく。ライフセーバーは人妻に手を伸ばすのも得意だった。元女優であるジニーは、今はしがないウェイトレスという役を演じているのであって、ミッキーとの恋愛を成就させれば、本当の自分を取り戻せると思い込むようになっていく。『日陰のふたり』(96)や『レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで』『愛を読むひと』(ともに08)と同様、母性的な強さとその中に狂気を宿らせたヒロイン像を演じるのが、ケイト・ウィンスレットはとてもうまい。
ジニーは、夫ハンプティがアルコール依存症であることを責めるが、それはジニーも同じだった。酒を遠ざけるようになったジニーだが、代わりにミッキーとの不倫愛に依存していくようになる。一方、多感な時期に両親の愛情を感じることができずにいるリッチーは、火遊びがますます激しくなっていく。このままだと放火魔になりかねない。ひと夏だけコニーアイランドで過ごすミッキーは、いつか小説家になるという夢に支えられている。ジニーとの交際は小説を書くための肥やしだった。みんな、何かに依存しながら生きている。それぞれ目の前にある幸せを手に入れようとするが、回転木馬のように永遠に追いつくことはできない。ウディ・アレンの作品を観ていると、その人が何に依存しているかが、その人自身ではないのかと思えてくる。彼らから依存対象を奪ったら、何が残るのだろうか。ウディ・アレンから映画づくりとクラリネットを奪ったら、後には何が残るのだろうか。
再び“#MeToo”運動について。ウディ・アレンを訴えているのは、前妻ミア・ファローの連れ子だったディアン・ファロー。幼い頃にウディ・アレンに性的虐待を受けたと、これまで何度も主張してきた。今回、ウディ・アレンが窮地に追い詰められたのは、ウディ・アレンとミア・ファローの息子であるロナン・ファローの存在が大きい。新進ジャーナリストであるロナン・ファローは17年に「ニューヨーカー」でハリウッドにおけるセクハラ問題を大々的に取り上げ、“#MeToo”運動を後押しした。ウディ・アレンとは絶縁状態にあるロナン・ファローが、姉ディアンを援護射撃した格好だった。言ってみれば、ウディ・アレン一家にずっと燻り続けてきた火種が、“#MeToo”運動へと広がっていったことになる。ウディ・アレンも、子どもたちによって自身の監督生命を絶たれるとは思いもしなかっただろう。
行楽客で賑わうコニーアイランド全体を見渡す大観覧車がオープニング、そしてエンディングで大きく映し出される。「人生は近くで見れば悲劇だが、遠くから見れば喜劇である」と語ったのは喜劇王チャールズ・チャップリンだった。チャップリンもまた、女性問題と赤狩りによってハリウッド追放という辛酸を舐めている。観覧車に乗っていれば、ごみごみとした近景がやがて美しい絶景へと変わっていく。男女のどろどろとした修羅場も、やがて掛け替えのない思い出へと変わることを願うばかりだ。ウディ・アレンの新作を劇場で観るのは、これが最後になるのだろうか。
(文=長野辰次)
『女と男の観覧車』
監督・脚本/ウディ・アレン 撮影/ヴィットリオ・ストラーロ
出演/ジム・ベルーシ、ジュノー・テンプル、ジャスティン・ティンバーレイク、ケイト・ウィンスレット、マックス・カセラ、ジャック・ゴア、デヴィッツド・クラムホルツ
配給/ロングライド 6月23日より丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国公開中
Photo by Jessica MiglioC)2017 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.
http://longride.jp/kanransya-movie
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