髭男爵・山田ルイ53世「一発屋芸人とは、“逆白鳥”なんです」
#お笑い #本 #インタビュー
――批評をしてる人に対しては皮肉なことかもしれないですけど、この本はまさにそれを一つにしてくれたんですよね。今までバラバラだった芸人さんのネタや人間性や生き方、それをギュッと一つにしてくれたっていう。
山田 さっきも言いましたけど、お茶の間の人は、ボーッと見ていてもちろんいいんです。ただお笑いのみならず、世間一般で皆バッサリ斬りたがる風潮がすごいじゃないですか? 発信者する側の色気というか、欲を感じるんですよ、そこに。何かをバッサリ斬って、注目されたい。それって結局、皆ちょっと一発当てたいんやん、みたいなね。
――「1億総実は一発当てたい」化……。
山田 それはあると思う。でも、この本に出てくる芸人は「一発」っていう言葉ついてますけど、読んでいただいたらわかる通り、本当に緻密にコツコツ組み上げた芸をやってるから、その果ての一発なので。まあでもね、一番いいサンドバッグであることは間違いないですから。わかりやすく一回大きく成功して、わかりやすく墜ちるっていう。だから「あの人は今」みたいなくくりと違って、現代の一発屋っていうのは「リアルタイムで負けを見せる仕事」みたいなことになってる。
――すごい。
山田 たとえばいま芸能界にいない人を、芸能界での勝ち負けで叩くことってないじゃないですか。ただ、一発屋って特殊で、現役で負けを見せる仕事みたいになってるんです。当然我々も意識してそれやってる部分もあるし、叩きやすい。昔、歌舞伎町で一瞬話題になった殴られ屋みたいなもんです。
――以前8.6秒バズーカーさんにインタビューした時、絶頂の時だったんですけど「一発屋になりたいんですよ」って言っていたのを、今ふと思い出しました。
山田 たぶんそれ、絶頂の時だから言えることですよ。リアルに墜ちてきた時は、そんな心境にはならない。焼きごてを喉に突っ込まれるぐらい、難しいですから。最近、HGさんのやってる一発屋ライブに、ようやく8.6秒が自首してきたって聞きました。HGさんは、これを「自首」と呼ぶんですけど(笑)。
――自首すれば、誰でも入れるんですか……。
山田 そうです。むしろ、自首しないと無理なんですって。一発屋は人から言われることじゃない、自称する人しか名乗れない。芸人の間では、一発屋を自称していない人に対しては、一発屋イジリしないんです。
――それが、その方にとってオイシイかどうか。
山田 僕らは一発っていうか0.8発くらいですけど、HGさんや小島よしお君みたいな、あんなすさまじい経験ってなかなかないと思う。普通に今テレビに出てる売れっ子の人でもないと思う。だからすごいし、大きく勝ったあと大きく負けた人間の生きざまっていうのは、何かしら響くところが、刺さるところがあると思います。“逆白鳥”なんですよね。
――逆白鳥ですか?
山田 白鳥は水の上では優雅にしてるけど、下はバシャバシャ水をかいてる。我々の場合、水の上でバシャバシャやってて、下はしっかり平泳ぎの感じ。今回は、その水より下の部分を、ちょっと書かせてもらったっていう。
――本当に……この本にはそういう的を射たたとえがたくさんあって、嫉妬すら感じました。書く職業の人間として。
山田 いや、逆白鳥は僕、2週間前から考えてましたから(笑)。
(取材・文=西澤千央)
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