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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.484

ドイツ国民は強制収容所の惨劇を知らなかった!? ナチス高官元女性秘書の告白『ゲッベルスと私』

 ポムゼルたち多くのドイツ人が気づかないふりをしていた間に、ユダヤ人が移住させられたゲットーや強制収容所で何が起きていたかを、ナチスドイツの宣伝映像や連合軍側の資料映像はまざまざと教えてくれる。ゲットーでは餓え死にしたと思われる痩せ細ったユダヤ人の死体が道路に転がり、強制収容所の中からはガス室で命を絶たれたユダヤ人たちのおびただしい死体の山が運び出された。多くのユダヤ人たちの命と引き換えに、ポムゼルたちは戦時中も豊かな生活を送り続けていたのだ。

ドイツの敗戦が決まり、街中にあったナチスの徽章やヒトラーの胸像はあっという間に廃棄された。

 ユダヤ人の強制収容所への移送計画の指揮をとったアドルフ・アイヒマンは、1961年にイスラエルで行なわれた裁判で、「私はただ上官の命令に従っただけ」と自分には責任がないことを最期まで主張した。ポムゼルもそうだ。条件のよい職場を求めて、たまたまゲッベルスのもとで秘書として働くことになっただけだと。ナチスの政治信条に共感していたわけではなく、自分や家族が食べていくために真面目に働いただけだったと。彼女は言う。「私に罪があったとは思わない。ただし、ドイツ国民全員に罪があるとするなら、話は別よ。結果的にドイツ国民はあの政府が権力を握ることに加担してしまった。そうしたのは国民全員よ。もちろん私もその一人だわ」。

 1945年、千年帝国と謳われたナチスドイツの首都ベルリンは陥落し、ヒトラーは自殺を遂げた。ヒトラーが後継者として指名していたゲッベルスだったが、それまでヒトラーに忠実だった彼は最期に逆らうことになる。敗戦国の首相として連合国側との交渉の席に就くことなく、ヒトラーの後を追うように自殺してしまう。ゲッベルスの妻と5人の子どもたちも道連れとなった。宣伝省の地下壕に隠れていたポムゼルはソ連軍の捕虜となり、終戦から5年間にわたって収容所生活を送ることになる。解放後、ポムゼルは再びラジオ局で働き始めた。2005年にホロコースト記念碑がベルリンに建立され、地下にある管理室のデータベースを検索したポムゼルは、音信不通になっていたエヴァが終戦の年に収容所で亡くなっていたことを知る。

 103歳となったポムゼルの顔中に深い皺が刻み込まれている。まるで年輪を重ねた古い老木のようだ。ポムゼルは老木化しながらも生き続け、自身の体験を語るべきタイミングをずっと待っていた。延べ28日間、合計30時間にわたる、長くつらいインタビューを終えたポムゼルは、2017年に106歳でこの世を去る。

 語るべきことを語り、老木のように倒れていったポムゼル。この映画がもしドキュメンタリーではなく劇映画だったら、どんなエンディングになっていただろうか。インタビューに答えたことが免罪符となり、天国へと向かったポムゼルは、そこでエヴァと再会する。エヴァは若い頃のままの姿だ。そのとき、エヴァはそしてポムゼルは、相手にどんな言葉を掛けるだろうか?
(文=長野辰次)

『ゲッベルスと私』
監督/クリスティアン・クレーネス、フロリアン・ヴァイゲンザマー、オーラフ・S・ミュラー、ローラント・シュロットホーファー
配給/サニーフィルム 6月16日(土)より神保町・岩波ホールにてロードショー公開
https://www.sunny-film.com/a-german-life

 

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最終更新:2018/06/16 18:00
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