よくがんばった自分に満足なんかしてらんねぇ!! 情熱が連鎖反応を呼ぶ『宮本から君へ』第9話
#ドラマ #テレビ東京 #どらまっ子 #長野辰次 #宮本から君へ #池松壮亮
■情熱はやがてひとつの形になる
池井戸潤の企業小説を原作にしたTBSの大ヒットドラマ『半沢直樹』はエリート銀行マンが倒産寸前のホテルを見事に立て直し、『下町ロケット』では町工場の二代目社長が国産ロケットの打ち上げに成功します。池井戸作品の主人公たちは頭脳明晰なエリートであり、また会社や家族を守るヒーローとして大活躍します。それに比べ、宮本は出来合いの版下を手に入れるために、走り回り、汗を流し、土下座までします。しかも、それは宮本自身が満足するためのエゴであって、全然かっこよくありません。美沙子(華村あすか)や靖子(蒼井優)といったヒロインたちも登場しない非常に地味な第9話ですが、でも観る者の心にじんわりと染み込むものがあります。
負け犬の烙印を押されたままじゃ、終われねぇ。宮本のそんなガムシャラさは、自分自身が傷つかないよう諦めがよく、TPOに合わせて感情をセーブできる大人になった我々に、大切なことを思い出させてくれるのでした。そして、おのれのエゴむきだしで突っ走ってきた宮本も、たまたま出逢ったいろんな人たちのさまざまな価値観を受け止めていくうちに、溢れ出る情熱はやがてひとつの形になっていくのです。頭でっかちだった宮本がようやく手に入れた信念、お金では手に入らない本当の意味での誠意と言っていいかもしれません。宮本はわずか1日でぐんと大人になったのです。
夜10時をすぎ、神保たちが待つ会社に宮本はようやく帰社します。朝からずっと全力で走ってきた宮本の心は、まだ止まることができません。「製薬会社の件は、もう終わったんや」と宮本を諦めさせようとする小田課長(星田英利)に懸命に喰らいつきます。サウナに移動した小田課長と神保を前にして、素っ裸の宮本は主張します。「このままで終わったら俺、きっとがんばったことで満足しちゃいます。俺は結果を噛み締めたいんです、勝ちでも負けでも」。サウナの熱気よりも熱い宮本に、ついに小田課長も根負け。課長決裁で新サンプル作成にGOサインを出すのでした。
ビジネスの世界では、結果のみが求められますが、その結果の元になるものを生み出すのは一人の人間が持っている情熱ではないでしょうか。誰だって、情熱はないがしろにはできません。後はもう、結果を残すだけです。退職が決まっている先輩の神保も、課長決裁したことで上から叱られることを覚悟している小田課長も、デザイン会社で人知れず新しい文具を考えている徳間さんも、広告会社で燻っている小菅も、そして視聴者全員が、池松壮亮演じる宮本が最後に奇跡を起こしてくれることを願っています。いよいよ物語が佳境に入る次回・第10話も見逃せません。
(文=長野辰次)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事