よくがんばった自分に満足なんかしてらんねぇ!! 情熱が連鎖反応を呼ぶ『宮本から君へ』第9話
#ドラマ #テレビ東京 #どらまっ子 #長野辰次 #宮本から君へ #池松壮亮
才能もなく、お金もなく、コネもない人間は、立場の強い人間の言いなりになるしかないのでしょうか。才能も、お金も、コネもない人間が立ち向かう武器は、ひとつしかありません。それは情熱です。効率至上主義で回る現代社会において、はたして情熱だけで物事は動くのか、常識ぶった大人たちに一矢を報いることができるのか。社会人になって1年足らず、勤務先は無名の中小企業、大手企業に勤める彼女にも棄てられ、自慢できるものが何ひとつない営業マンの宮本が、世間の常識に呑み込まれることを拒み続ける熱血サラリーマンドラマ『宮本から君へ』(テレビ東京系)。新井英樹の原作コミックの中でも、共感度の高いエピソードをほぼ忠実に再現した第9話を振り返りましょう。
(前回までのレビューはこちらから)
坊主頭になった宮本浩(池松壮亮)は走り続けます。宮本は都内の弱小文具メーカーに勤める新米営業マンで、大手製薬会社に納品するクリアファイルの入札をめぐってライバル社の益戸(浅香航大)としのぎを削り合っているところです。不当な手段で入札価格を事前に知った益戸が直前になって価格を下げたことで、益戸側の勝利はもう確定していました。ですが、不正がまかり通る現実社会に我慢できない宮本は、益戸が用意したクリアファイルよりもいい物を見つけようとデザイン会社を次々と訪ねて回っているのでした。大手製薬会社が正式決定を下すのは1週間後。先輩営業マンの神保(松山ケンイチ)が作成したリストを片手に、宮本はひたすら走り回ります。
宮本がいくら焦っていても、どのデザイン会社ものんびりとした対応で、宮本がイメージしているようなオシャレなクリアファイルはそうそう見つかりません。「地軸はいつだって、僕から遠く離れた所にあって、世の中は回っていた」と諦め掛けていた宮本ですが、夕方に駆け込んだデザイン会社でようやく宮本の熱さに反応してくれる人物に出逢います。デザイン会社のお局っぽい女性社員の徳間さん(片岡礼子)に「ショールームの見学は原則的に夕方の5時まで……」と追い返されそうになった宮本ですが、何度も頭を下げ、「お願いします」と連呼する坊主頭の宮本のしつこさにほだされます。「原則的に好きですよ、そういうの」と徳間さんはショールームへ案内します。ショールームといっても、オフィスの片隅にあるちっぽけな展示スペースでしたが。
小さなショールームでも、そこには徳間さんがこの会社に勤めてからの歴史でいっぱいです。徳間さんが手にしたクリアファイルを、宮本はひとめで気に入ります。飛び込みで現われた初対面の宮本に対し、徳間さんは丁寧に対応し、版下を管理している広告会社にまで連絡を入れてくれました。「どうやって、お礼したらいいですか……」と素直に感謝の気持ちを伝える宮本に対し、徳間さんは照れながら答えます。「選んでくれたのは、あたしの初仕事。だから、褒められた分でチャラ!」。職場では男性社員をアゴで使っている徳間さんが、ひどく可愛い女性に思えます。朝からずっと走り回ってオーバーヒート気味だった宮本の心に、さぁ~と涼しげな風が流れた瞬間でした。
情熱は連鎖します。宮本が版下を受け取るために訪ねた広告会社では、見るからに小物そうな平社員の小菅(岩瀬亮)が応対しますが、退社時刻に現われた来客に迷惑顔しか見せません。「世の中ね、あなたを中心に回っちゃいませんよ」とブツブツ愚痴をこぼす小菅ですが、上司の梶井(鶴見辰吾)の命令で宮本と一緒に資料室のどこかに眠っているはずの20年前の版下を探し出すことになるのでした。宮本が他人の迷惑を顧みずに仕事に没頭していることが、自分の枠の中だけで生きている小菅にはまるで理解できません。梶井の前で土下座までした宮本のことを「あんた、けっこう計算高いよね」と見下していた小菅ですが、「社会人になって、ほとんどいいことありません」「彼女はいません。僕が女でも、今の僕には惚れませんから」と版下を探しながら心情を吐露する宮本に、斜に構えていた小菅の心もついに動かされます。
小菅も思いどおりに進まない恋愛や面白くない仕事内容で悶々とした日々を過ごしているようです。最初はまるでやる気のなかった小菅ですが、資料棚の後ろに落ちていた版下をひょっこりと見つけます。小菅がいなければ、この版下はその日のうちには見つからなかったはずです。徳間さんも、小菅も原作コミックでは一回きりの登場です。『宮本から君へ』では脇役にしかすぎません。でも、そんな一期一会の出逢いに支えられて、宮本は夜になっても走り続けるのでした。
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