『コンフィデンスマンJP』最高視聴率の要因は“小池徹平のネクラ感”と“見事な伏線とパロディの使い方”!?
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身近な人にも自分自身にも、桂の痛々しさは当てはまるところがあるのではないか。桂という男は万人が共感できる悪役だったのかもしれない。だからこそ、ラストで桂がプロチームを金儲けの道具でなく真剣に育てようとする心境の変化に感動できた。人生とは青春の穴埋め作業なのかもしれないと思わされた1時間だった。
■“見せ球”と“クセ球”、スポーツにも通ずる脚本のテクニック
「スポーツ編」ということで、野球になぞらえて9話で使われた脚本術を紹介したい。
前置きとして野球には“見せ球”という投球術がある。「速球を投げる前にわざと遅い球を放り、速球をより速く見せる」などがそれに当たる。
違和感のある球を見せて、渾身の球でアウトを取りにいく。その作法は、脚本で言うところの“伏線”と似ている。
バスケチームにいたダー子達の仲間、五十嵐(小手伸也)が秘密兵器と呼ばれ続け、その活躍を心待ちにさせる。いよいよ活躍!……という場面で、16秒で交代を余儀なくされ足を引っ張るだけとなる。普通に登場させて失敗させるよりも、秘密兵器という前フリを見せ続けたおかげで笑いの振れ幅は大きくなる。
ギャグシーンだけでなく、伏線は物語の大きな引っ張りにも使われていた。物語の序盤、桂が魅力的なプロチームの見学中に突然帰宅。そして桂は弱小チームと契約を結ぶ。突然の帰宅という違和感が伏線となり、謎が解けるまでチャンネルを変えられなくなる。
物語の終盤、その伏線がヒントとなり、チームの買収と弱体化が、わざと赤字部門を出すという会社の税金対策であると同時に、桂のスポーツへの復讐になるという真実を浮き彫りにする。
余談だが刑事ドラマやミステリーの視聴率が安定するのは、伏線の賜物。誰が何のためにどんなトリックで殺人に至るのか、伏線を散りばめながら視聴者をラストシーンまで誘導できる。
そして、ネットでも話題となった、『スラムダンク』や『ROOKIES』(ともに集英社)などの名作コミックのパロディ。これは“クセ球”に置き換えられる。クセ球は、ストレートであるがブレる球であるため、バットの芯に当たりにくい特性を持つムービングファストボールなどを指す。
第9話も、ストレートにやれば、視聴者に「つまらない!」と打ち返される場面で、パロディを使った。不良たちが更生する場面ではドラマ『ROOKIES』(TBS系)の主題歌を流し、「バスケがしたいです」と『スラムダンク』の名言を言わせる。普通の熱血スポ根シーンのはずが、パロディという一クセだけで、元ネタを知る者の喜びに変わり、笑いにもなる。
また「バスケがしたいです」や「左手は添えるだけ」などの元ネタを知らないという前提で、冒頭に提示しておく配慮は見事だった。知らない人にとっては伏線となり、知っている人にとってはパロディとなる。
伏線とパロディの使い方が見事だったからこそ、9話の視聴率は上昇するに至ったのではないだろうか。
■最終回、初の2ケタ視聴率となるか!?
11日には、15分拡大で最終話「コンフィデンスマン編」が放映される。結婚詐欺を題材に、ダー子たちが別のコンフィデンスマンと戦いを繰り広げるようだ。予告によれば、ダー子たちが命の危機が訪れる! ただ、映画化を発表してしまったため、死なないことは明らかなのだが……。
本レビューも次で最後と寂しさを感じつつ、本作の一ファンとして、最終話「コンフィデンスマン編」の有終の美を期待したい。
(文=許婚亭ちん宝)
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