日本映画界から実写ヒット作が消えてしまった!? 『シン・ゴジラ』以降の主流なき邦画界を考える
#映画 #インタビュー
■時間を費やした下地づくりの重要性
今年のGW興行は、東映配給、役所広司や松坂桃李ら新旧実力派俳優たちが熱演した『孤狼の血』(現在公開中)が注目を集めたが、週間興収ランキング初登場3位といまいちな数字だった。作品に込められた熱気が、残念ながら世間一般にまで浸透できずにいる。興収は10億円に届くかどうか微妙なところだ。
大高「東映の実録ヤクザ映画『仁義なき戦い』(73)と比較されがちな白石和彌監督の『孤狼の血』ですが、『仁義なき戦い』は東映の任侠路線という下地があったからこそ熱狂的に受け入れられた作品です。『孤狼の血』は作品としての評価は高いものの、今の大多数の観客がヤクザ映画を見てみよう、楽しもうという下地がない状況での公開でした。役所広司が汚れ役もやれることは分かっているわけで、映画『娼年』(R18+)が単館系で3億円を超える大ヒットとなっている松坂桃李を思い切って主演にしてもよかったと思います。旧体依然とした大きな組織に、上司の命令に素直に従うだけだった新人刑事役の松坂桃李が闘いを挑むという構図は、マスコミで騒がれている日大アメフト部問題と似ている気がします。ヤクザ映画へのオマージュといった視点を越え、今の日本社会に果敢に斬り込くんでいく方向性がほしかった。東映は『孤狼の血』のシリーズ化を考えているようですが、宣伝も含め戦略を練り直す必要があるでしょう」
日本映画界に明るいニュースをもたらしたのは、カンヌ映画祭パルムドールを受賞したギャガ配給、是枝裕和監督の『万引き家族』(6月8日公開)だ。是枝監督作はカンヌ映画祭審査員賞を受賞した福山雅治主演作『そして父になる』(13)が興収32億円のヒット作となっており、『万引き家族』も期待されている。
大高「福山雅治が主演した『そして父になる』に比べるとキャストバリューは低いかもしれませんが、カンヌで受賞した直後での公開なので、かなりのヒットになるのではないかと思います。ただし、是枝監督はいきなりカンヌ映画祭で受賞したのではなく、今年で5回目の参加です。海外の映画祭に挑戦し続けてきたという長年の下地があったからこそ、今回の最高賞受賞に繋がったわけです。何事も下地は大切です。是枝監督が海外の映画祭で評価されたことで、これに続こうとする若い世代が必ず現われるはず。日本映画界、というより日本映画の今後において、これは大きな意味を持つと考えられます」
1991年から続く「日本映画プロフェッショナル大賞」の主宰者でもある大高氏。今年の「第27回日プロ大賞」作品賞を受賞した『勝手にふるえてろ』の大九明子監督、浅野忠信が同賞の主演男優賞に選ばれた『幼な子われらに生まれ』の三島有紀子監督、同じく新人監督賞に選ばれた『愚行録』の石川慶監督らにも期待を寄せている。
大高「90年代の日プロ大賞はオリジナルビデオの世界や単館系興行の分野で活躍していた三池監督や黒沢清監督を高く評価してきました。2人は強烈な作家性の持ち主ですが、今回受賞した大九監督らは今の時代に大切な問題意識を存分に汲み取りながら、その上で演出上の持ち味を発揮できる職人的タイプではないかと思います。三島監督は『ビブリア古書堂の事件手帖』の公開が11月に控え、大九監督は『美人が婚活してみたら』が19年に公開予定となっています。石川監督はデビュー作『愚行録』を製作・配給したオフィス北野がこれからどうなるのか状況がまだ読めませんが、新人ながらあれだけの傑作を放った才人。将来が楽しみな監督です」
夏には、東宝の川村元気プロデューサーが参加している細田守監督の劇場アニメ『未来のミライ』(7月20日公開)や大根仁監督の『SUNNY 強い気持ち・強い愛』(8月31日公開)、福田監督が再び小栗旬とタッグを組んだ『銀魂2』(8月17日公開)、ピンク映画やオリジナルビデオで充分なキャリアを重ねてきた城定秀夫監督の『ご主人様と呼ばせてください 私の奴隷になりなさい・第2章』などの公開が待っている。2018年下半期には、サプライズヒットが生まれるだろうか。
(取材・文=長野辰次)
●大高宏雄(おおたか・ひろお)
1954年浜松市生まれ。文化通信社特別編集委員、映画ジャーナリスト。92年から「日本映画プロフェッショナル大賞」を主宰している。「キネマ旬報」にて「大高宏雄のファイト・シネクラブ」、毎日新聞の毎週金曜の夕刊にて「チャートの裏側」などを連載。主な著書に『映画賞を一人で作った男 日プロ大賞の18年』(愛育社)、『昭和の女優 官能・エロ映画の時代』(鹿砦社)などがある。
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