最終回目前! 『おっさんずラブ』ヒットの裏に、現代ニッポンのおっさんが抱える孤独と不安があった?
#ドラマ #成馬零一
主人公の春田は33歳で、牧は25歳、栗林は23歳。10代から見れば全員おっさんかもしれないが、牧と栗林は社会人としては若手で、30代の春田にしてもまだ青年の範疇にいて、むしろ幼く描かれている。
そう考えるとやっぱり、おっさんといえるのは40代からで、44歳の武川と55歳の黒澤部長だろう。
特に重要な存在が黒澤部長だ。物語の発端が彼の春田への告白だと考えると、タイトルのおっさんとは黒澤のことではないかと思う。
春田に「気持ちに応えることができない」と言われた時、黒澤は「ダメなのは上司だから? それとも男だから?」と尋ねるが、春田は「純粋な上司と部下の関係に戻りたいんです」と答える。
この場面は、黒澤の恋愛感情が、上司から部下へのパワーハラスメントとなっていたことを思い知らされる。
黒澤が向ける春田への恋愛感情には、同性愛の要素だけでなく、パワーハラスメントの問題が内在するのだが、今の日本を見ていると、視聴者の関心が向かっているのは年配の男性の振る舞いが結果的にパワハラとなってしまうという、おっさんが持つ暴力性ではないかと思う。
TOKIOの山口達也が起こした未成年への暴行未遂事件や、日大アメフト部の悪質タックル事件など、おっさんのパワハラ問題が連日ワイドショーをにぎわせていて、その風当たりは年々強まっている。
彼らおっさんはサイレントマジョリティで、ありふれた存在だからこそ、多くは語られない。しかし、今の日本社会で起きている大概の問題は彼らに起因している。
パワハラもセクハラも、行使する側に問題があるのは明らかだ。しかし、ニュースやドラマは被害にあった側に光を当てるあまり、加害者たるおっさんたちを無知で愚かなモンスターとして処理している。しかし彼らのパワハラの背後には、彼ら自身も言語化できていない深刻な悩みや問題があるのではないだろうか。
だからこそ、黒澤部長が注目されているのだろう。彼が春田に向ける恋愛感情の内実についてあまり語られていないが、長年連れ添った妻と離婚してでも春田と付き合うとする黒澤の常軌を逸した行動は、深く説明されないからこそ、背後におっさんが抱える孤独と不安があるのではないかと想像させる。
最終話は、春田が誰を選ぶのかという方向に向かうのだろうが、黒澤の中にあるおっさんの不安や哀しみの片鱗が、少しでも見えたらいいなと思う。
(文=成馬零一)
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