元少年Aになりきった瑛太の自傷シーンはトラウマ級の衝撃!! 連続児童殺傷事件のその後『友罪』
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映画化された『友罪』でも、他人との間に壁をつくっていた鈴木が、一緒に働く益田たちと交流を深めていくパートは重要なものとなっている。鈴木は口数が少ないものの、心にキズを負っている人間の存在には敏感だ。コールセンターに勤める美代子(夏帆)もつらい過去を抱えているが、鈴木は偏見を持つことなく美代子と接する。指の怪我の癒えた益田の退院祝いを兼ねて、みんなでカラオケに繰り出すシーンは、一瞬のユートピアのような温かさに満ちている。過ちを犯した人間も、善行を重ねればいつかは救済されると信じたくなる。
一方、一度犯した罪は容易には許されないと糾弾するのが、瀬々監督のメジャーヒット作『64 ロクヨン』(16)に主演した佐藤浩市演じるタクシー運転手の山内だ。原作小説では山内の出番は限られていたが、瀬々監督は山内パートを脚色した上で大幅に増やしている。かつて山内の息子(石田法嗣)は過失事故で複数の子どもの命を奪った。事故以降、山内は加害者の父という責任感から家族を解散し、自分はタクシー運転手となって、細々と遺族に対して慰謝料を払い続けている。瀬々監督は『ヘヴンズ ストーリー』で撮影時17歳だったヒロイン・寉岡萌希に「家族が不幸に遭った人間は、幸せになることは許されない」とキツい言葉を吐かせた。今回は佐藤浩市に同じように重い台詞を言わせている。一度奪った命は二度とは帰ってはこない。新しい家族に、そのことを話すことができるのかと。
三浦しをん原作、大森立嗣監督の『光』(17)でも心に暗い闇を抱えた若者を演じた瑛太が、今回も強烈な闇演技を披露している。美代子にまとわりつくDV男(忍成修吾)から殴る蹴るの暴行を浴びる鈴木は、無抵抗でボコボコにされるがままだ。さらに、鈴木は石を拾って自分の頭を鮮血が噴き出すまで何度も何度も叩き続ける。「僕が死ぬところ、見ててよ」と叫ぶ。
自分の過去を隠し、新しい職場で束の間の平穏を感じることはあっても、心の奥に潜む闇は一生消えることはない。死への衝動と生に対する執着心とが、ない交ぜになった迫真の表情だ。元少年Aと同時代を生きる表現者としての、言葉では表現できない複雑な想いがスクリーンから噴き出している。
(文=長野辰次)
『友罪』
原作/薬丸岳 監督・脚本/瀬々敬久
出演/生田斗真、瑛太、夏帆、山本美月、富田靖子、奥野瑛太、飯田芳、小市慢太郎、矢島健一、青木崇高、忍成修吾、西田尚美、村上淳、片岡礼子、石田法嗣、北浦愛、坂井真紀、古舘寛治、宇野祥平、大西信満、渡辺真紀子、光石研、佐藤浩市
配給/ギャガ 5月25日(金)より全国公開
(c)薬丸岳/集英社c)2018映画「友罪」製作委員会
http://gaga.ne.jp/yuzai
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