「アンクル・トムの小屋」は差別を助長するの!? 米国の暗黒史『私はあなたのニグロではない』
#映画 #パンドラ映画館
少年時代のボードウィンは多くの男の子がそうであるように、西部劇に夢中になった。西部劇はそれこそ暴力と偏見に溢れたジャンルだ。映画史に残るジョン・フォード監督の人気作『駅馬車』(39)だが、主人公であるジョン・ウェインは駅馬車を襲うネイティブ・アメリカンを次々と射殺する。子どもの頃のボードウィンはウェインら西部劇のヒーローたちに無邪気に声援を送っていたが、やがて物心がつく年齢になると、自分はウェインたち白人側の人間ではなく、白人が虐殺するネイティブ・アメリカン側の人間なのだと気づき、愕然とすることになる。
襲い掛かる敵に向かって、銃を持って反撃することが許されているのは白人だけだと、ボールドウィンは指摘する。西部劇はすっかり人気がなくなったものの、ボードウィンが半世紀前に指摘したこの構図は現代も変わらない。コロンバイン高校で実際に起きた銃乱射事件を題材にした犯罪映画『エレファント』(03)の中で、イジメがはびこるスクールカーストに対して銃を手にして抵抗することが許されたのは白人の少年たちだった。ボードウィンは言う、「白人が『自由か死か』と叫べば英雄になれるが、黒人が同じことを叫べば断罪される」と。根深い偏見や差別意識は今も消えることがない。映画やテレビなど様々なメディアの中で、それは息づいている。
白人夫婦の家で、家政婦として働く太った黒人女性のイラストも本作の中に挿入される。この太った家政婦のイラストは、1940年代から続く人気アニメ『トムとジェリー』に登場した黒人のお手伝いさんミセス・トゥ・シューズ(足だけおばさん)を彷彿させる。黒人女性=家政婦というステロタイプなイメージを長年にわたって拡散しつづけたテレビ番組も、ボードウィンらにとっては不快なものだったようだ。
魔女狩りのように、問題表現のある作品をあげつらい、封印化を迫るのが本作の狙いではない。むしろ、ボードウィンは逆のことを言っている。「問題をすり替えている限り、この社会に希望はない」と。問題に向き合っても、社会は容易には変わらない。だが、問題に向き合わない限り、社会を変えることはできない。本作はボールドウィンのこんな言葉で締めくくられる。
「歴史は過去ではない、現代である。我々は歴史だ。そして、この事実を無視することは犯罪である」
(文=長野辰次)
『私はあなたのニグロではない』
監督/ラウル・ペック 原作・出演/ジェームズ・ボールドウィン
語り/サミュエル・L・ジャクソン
配給/マジックアワー 5月12日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
http://www.magichour.co.jp/iamnotyournegro
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