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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > ヤクザ映画のオマージュ『孤狼の血』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.478

映画じゃけぇ、何をしてもええんじゃ!! 男根から真珠を取り出すシーンが強烈すぎる『孤狼の血』

 大上の凄さはそれだけではない。裏社会の情報を入手するため、「加古村組」と敵対する「尾谷組」の若頭・一之瀬(江口洋介)や右翼団体の代表・瀧井(ピエール瀧)とはズブズブの関係だった。ヤクザと懇意にしても異動や処分されればそれで終わりだが、大上は警察上層部のスキャンダルも収集し、闇ノートを作成している。この闇ノートがある限り、警察上層部は大上の無軌道ぶりを咎めることができない。ヤクザvs.大上、大上vs.警察上層部、古豪ヤクザvs.新興ヤクザ……と様々な局面が展開し、物語は熱気を帯びてスリリングに転がっていく。

 久々の狂乱演技を見せる役所広司の相棒役を務めるのは、白石和彌監督の『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)で超チャラい不倫男を巧みに演じてみせた松坂桃李。今年公開の映画『不能犯』ではニタニタと不気味に笑う連続殺人鬼、大ヒット中の『娼年』では年上の女性たちを虜にしてしまうコールボーイと、作品ごとにまったくの別人になりきってみせている。今回は広島大学を卒業し、公務員としての職業倫理を遵守するマジメな新人刑事役だ。大上のでたらめさに辟易する日岡だったが、大上が誰よりも捜査に情熱を燃やしていることは認めざるをえない。情熱はゾンビウィルスに比べると遅効性だが、やがて激しく強く感染する。ドブのようにすえた臭いのする裏社会を大上と一緒に駆けずり回るうちに、大上に反発しながらも日岡はガミさん二世と呼びたくなるようなワイルドな刑事へと変貌していく。

クラブのママ・里佳子役の真木よう子。濃い人間ドラマの中で、より本領を発揮するタイプの女優であることに間違いない。

 物語の後半、ある事情から大上は街から姿を消すことになる。これからクライマックスに差し掛かるというときに、主人公がふいに消えたことで、逆に物語は大きく膨らんでいく。残された日岡たちは、それまで矢面に立っていた大上抜きで戦うしかない。そして、不思議なことにその場にいないはずの大上の存在感が、より大きなものに感じられる。主人公の不在が物語のカタルシスを呼び込むこの作劇は、本作のたまらない魅力となっている。現代社会から欠落してしまったもの。それは大上が全身からほとばしらせる過剰なまでの情熱であり、人間臭さであり、そして悪党たちを上回る悪知恵である。

 今村昌平監督のパルムドール受賞作『うなぎ』や黒沢清監督のブレイク作『CURE』(ともに97)、実際に起きたバスジャック事件と奇妙にシンクロした『EUREKA』(01)など数多くの名作に出演してきたベテラン俳優・役所広司から、多彩な役に挑んでいる真っ最中の松坂桃李への継承杯のような赴きを感じさせる本作。また、男たちの熱さに触発されたかのように、クラブのママ役の真木よう子、怪我を負った日岡の手当てをする薬局の店員役の阿部純子ら女優陣も女のフェロモンを存分にスクリーンに振りまく。テレビ放映されることを前提に製作されたテレビ局主導映画とは大きく異なる、去勢されることを拒み続ける者たちが集った砦のような劇場映画だ。

 平成の世が終わろうとする現代に、男たちが熱かった昭和の物語がリブートされた。孤高に生きる狼たちの熱い血を、ぜひ最後まで飲み干してほしい。
(文=長野辰次)

『孤狼の血』
原作/柚月裕子 脚本/池上純哉 監督/白石和彌
出演/役所広司、松坂桃李、真木よう子、音尾琢真、駿河太郎、中村倫也、阿部純子、滝藤賢一、矢島健一、田口トモロヲ、ピエール瀧、石橋蓮司、江口洋介
配給/東映 R15+ 5月12日(金)より全国ロードショー
(c)2018「孤狼の血」製作委員会
http://www.korou.jp

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最終更新:2018/05/06 18:00
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