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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.477

銀盤の真ん中で「愛がほしい」と叫んだ淫蕩女!! 人気アスリートのドキュン人生『アイ,トーニャ』

世界中の人々に愛されることを望みながら、嫌われ者となってしまったトーニャ・ハーディングの半生を、マーゴット・ロビーが熱演。

 冬期五輪における花形競技となっているフィギュアスケートだが、芸術点をめぐってたびたび問題が起きる。スピードや点数を競う他の競技と違い、競技が始まる前から、選手の容姿や品格といった数値化できないものが基礎票として付いて回る。かつては多くの非欧米系選手が、この芸術点に泣かされてきた。米国人ながら“ホワイト・トラッシュ”と呼ばれる貧困層出身のトーニャ・ハーディングも、泣かされてきた側のひとりだった。マーゴット・ロビーがプロデューサーと主演を兼ねた『アイ,トーニャ』は、1994年のリメハンメル五輪直前に起きた「ナンシー・ケリガン襲撃事件」でスポーツスキャンダル史に名前を残すことになるトーニャ・ハーディングの生い立ちから、現在に至るまでの半生を追い掛けた実録ドラマとなっている。

 米国代表として92年のアルベールビル五輪、続くリメハンメル五輪と2大会連続出場を果たした女子フィギュア選手トーニャ・ハーディング(マーゴット・ロビー)。彼女の選手生活を振り返る上で外すことができないのが、トーニャの母親ラヴォナ(アリソン・ジャネイ)だ。ラヴォナは7度にわたって結婚と離婚を繰り返し、トーニャは幼くして実父と別れ、家庭の愛情に飢えた少女時代を過ごした。そんなトーニャが強い興味を示したのがフィギュアスケートだった。ひんやりとしたリンクの上で軽やかに滑り、くるくると回れば、みんなが注目し、お姫さま気分を味わうことができる。ラヴォナはトーニャにフィギュアを学ばせるが、それは娘への愛情からではなかった。トーニャが金の卵を産むガチョウになるに違いないと踏んだからだった。

 ウエイトレスとして稼いだお金でトーニャをフィギュアの道へと進ませたラヴォナは、コーチよりも怖い存在だった。トーニャが練習中にトイレに行きたいと訴えても、それを許さなかった。トーニャが競技会に出場するようになると、いくら娘ががんばっても、周囲の目を気にすることなく罵倒した。「あの子は叩かないと実力を発揮しない」というラヴォナの偏狭な教育法だった。母親から逃れるように、トーニャはチンピラ風の男ジェフ(セバスチャン・スタン)と交際・結婚するが、トーニャも母親似で男を見る目がなかった。ジェフが優しかったのは最初の数カ月だけで、気に喰わないことがあるとすぐにトーニャを殴った。でも、小さい頃から母親に虐待されてきたトーニャは暴力には慣れっこだった。凶器を手にして反撃するなど、似た者夫婦として付かず離れずの生活を送ることになる。

幼い頃のトーニャとリンクで平然と煙草を吸う母親ラヴォナ(アリソン・ジャネイ)。迫真の鬼母ぶりで、ジャネイはアカデミー賞助演女優賞を獲得。

 トリプルアクセルに成功した史上2人目の女子選手となるトーニャ(1人目は伊藤みどり)だが、選考会ではいつも点数が伸び悩んだ。納得がいかないトーニャは、審査員のひとりを追い掛けてその理由を問いただす。「残念ながら、君は僕たちがイメージする選手像ではないんだ。国家代表になるには、家庭も完璧でないとね」という審査員の言葉は、温かい家庭を知らずに育ったトーニャを冷たく突き放すものだった。高価な競技衣装を買えないトーニャは手縫いの衣装で出場していたが、センスが悪いと酷評されていた。遠征費用やコーチ代もバカにならない。その上、完璧な家庭を持っていないとダメだという。それでもトーニャは諦めない。別居中だったジェフと復縁するなど、彼女なりのベストを尽くす。すべては五輪に出場するため。フィギュアの世界で頂点を極めることが自分の人生を輝かせてくれると、トーニャは信じて疑わなかった。

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