『孤独のグルメ』スタート!「こういうのでいいんだよ」という美学を覆すとんかつ屋の“追いステーキ”ってナンだ!?
#ドラマ #テレビ東京 #松重豊 #どらまっ子 #柿田太郎 #孤独のグルメSeason7
■とんかつの後の「追いステーキ」
さらに隣の客の「キセキのステーキとかつ100グラムずつ」という注文の仕方に注目し、「そういうのアリなのか……」とキセキのステーキ100グラムを追加。思わず隣の客に「助かりました」と礼を言い、動揺させてしまう五郎。今回も飯の海を自由に泳いでる。
ラストのかつ一切れを再度とんかつソースで締める。ソースに始まりソースで終わる美学。
そして美学とはとても思えない追加のステーキが到着。
「衣を脱いでなお旨し」という肉をステーキソースで。
「これはご飯いらない、肉で肉が食える」らしい。注文時にも「ここで追いステーキをかませたのはうれしい」と喜んでいたが、五郎独自の言語感覚がこのドラマの人気を支える一つ。いやメインといってもいい。追いステーキって、ソイソースみたいでどこかしっくりくるし。
店員お勧めのオニオンソース。豚肉と玉ねぎの相性の良さから「生姜焼きの原理か」と発見する五郎。美味い組み合わせを考えている時、その舌は科学者だ。
今回、ぜひ確かめたくなったのは、わさび醤油で食う(この店の)豚肉の美味さ。この組み合わせを「ベストアンサー」だと断言した五郎。
「俺の舌は今、感動にむせび泣いている」
食えるか心配していたくせに、結局「あと300グラムくらい全然イケる」と胃袋フル回転。量を食っても軽い肉なのだろう。
「こんなとんかつとこんなステーキが、上尾の街に潜んでいたなんて。豚肉の道、奥深し」
そして原作者・久住昌之がロケ地で飯を食う「ふらっとQUSUMI」のコーナー。原作漫画にない店しかドラマでは描かれないので、作者が来るのも基本毎回初めて。
まずは予約限定の牛タンステーキを、わさび醤油で。美味いに決まってる。驚いたのは小ぶりの熟成ひれカツの150円といういう値段。小ぶりといっても久住ですら4口以上かかりそうな立派な「小ぶり」っぷり。店からしたら大迷惑だろうが、これとご飯だけでも昼飯としてアリだと思ってしまった。
本編でメニューだけ出てきたお子様定食(カツまたはステーキ)も350円だし、五郎も言ってたが、いくら精肉店が経営してるとはいえ「店として大丈夫か?」。
■「行かない」視聴者でも、ただ見るだけで楽しめる作り
この番組は基本実在する店やメニューで撮影しているのだが、店員は役者が演じているし、味わってるのも、あくまで架空の存在・井之頭五郎であって松重豊でないし、もちろん物語部分はフィクション。ドラマ本編部分には必要以上の「情報」的なものは差し込まず(久住コーナーが「情報」に当たるが、あくまで脇。逆に裏返しでここを「メイン」だと言う人もいる)、視聴者が「行く」という前提を強く押し出してはいない。
「食べたいけど行くの面倒臭い」とか「一見さん入りづらそう」とか「そもそも行く時間ない」とか、そういった萎える感情から解き放たれ、ただ井之頭というどこにでもいそうな人物が、ただ一人、悩んだり浮かれたり発見したりしながら日常の飯を享受するサマを観て楽しめばいいだけだ。
グルメ情報を見てる時につきまとう「でもどうせ俺は行かないしな……」という劣等感に苛まれることがない。
もちろん行きたくないわけではない。そりゃ行きたいし食べたいのだが、それはそれとして、「ここ」に行かないで「これ」を食べなくても、別に構わない気持ちにさせてくれる。腹が減ったら各々のとんかつ「らしき」ものを食えばいいのだ。
だがしかし、今回はこのキセキのとんかつは食ってみたくて仕方がない。うれしいような悔しいようなこの気持ち。
あくまで五郎が食らうところを鑑賞することで「自分の中に眠る食の思い出を喰らう」的な楽しみ方を提示してきた番組だったのに、こんなに感情をかき乱されるとは。
Season6でもラム肉だらけの中華という未知の味を突きつけ我々を困らせた「前科」があったが(第8話)、今回は王道の味でありながらそのクオリティの高さと圧倒的なコストパフォーマンスで仕掛けてきた。この方向が番組的にどう影響するかはまだわからない。今週の「世田谷区経堂のバイキング」を待ちたい。
(文=柿田太郎)
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