『女は二度決断する』新しいファシズムは見えない形で近づいてくる!! ネオナチ犯罪映画を撮った独監督が鳴らす警鐘
#映画 #インタビュー
■現代のネオナチは『バットマン』のジョーカーのよう
──夫と息子を爆殺された主人公カティヤ(ダイアン・クルーガー)は、みずから証人として裁判に臨むことに。裁判を傍聴していた被告側の父親(ウルリッヒ・トゥクール)の姿が、とても印象に残ります。いかにも中流階級の真面目そうなお父さんで、何不自由なく息子を育てたはずなのに、息子はヒトラー崇拝者に育ってしまった。加害者家族のやるせなさ、不条理さを感じさせます。
アキン 右翼思想、ファシズム思想の人たちはすべての階級にいると僕は感じているよ。移民ヘイトしているのは、労働者階級だけじゃないんだ。特にネオナチは非常に高学歴で、洗練されたエリート階級の中にもいる。彼らにとってのアイデンティティー・ムーブメントなんだ。さっきも触れたけど、90年代の頃とは違って今は外見からはネオナチかどうか判別できないし、彼らが使うレトリックも以前は論破しやすいものだったけど、より巧妙なものに変わってきている。リベラル系のメディアの中にもネオナチが紛れ込んでいるケースもあるし、左寄りの政党に所属していた政治家が実はネオナチだと正体を明かしたこともある。まるで『バットマン』に出てくる悪役のジョーカーみたいに、普段はその素顔を隠しているんだ。
──本作のドイツ語の原題が「Aus dem Nichts(どこからともなく)」となっているのは、そういう背景があるんですね。
アキン 右寄りのテロリストたちの家族構成を調べてみると、両親は実はリベラリストであることが多いんだ。これは僕の推測だけど、子どもはどうしても自分自身のアンデンティティーを確立したいがために、親からなるべく離れたものを目指してしまうんじゃないかな。若者は特に過激なものへと走ってしまう。ドイツ赤軍派の女性メンバーは、父親が教会の神父だったなんてこともあったしね。僕の家族にもそれは言える。僕の父はすごく保守的な考え方だったけど、僕は若い頃に共産党を支持するなど、父とはまったく異なる政治的思想を持っていた。平穏な家族のもとで育っても、過激な政治思想を持つようになることは、決して珍しいことじゃないんだ。
──中盤まではリアルな法廷サスペンスとして展開しますが、やがて物語は予想外の方向へと振り切っていく。フランス映画の名作『冒険者たち』(67)で知られるロベール・アンリコ監督のもうひとつの代表作『追想』(75)を思わせるクライマックスです。『追想』もナチスが無辜の市民を虐殺した実在の事件を題材にしていました。そういった過去の作品からインスパイアされた部分はある?
アキン ロベール監督の作品はどれも観ているはずだけど……、『追想』は邦題だよね? 意識して撮ってはないけれど、意識下にはあったかもしれないね。ドイツに帰ったら、見直してみるよ。もちろん、僕が撮る映画は古今東西のいろんな作品から影響を受けているよ。ダイアン・クルーガーが夜の街を歩くメインビジュアルはポスターにもなっているけど、『タクシードライバー』(76)の主人公トラヴィス(ロバート・デニーロ)の妹みたいじゃないかい(笑)。ひとりぼっちで歩くダイアンの姿がトラヴィスっぽかったんで、スチールカメラマンに頼んでそのシーンを撮ってもらったんだ。
──『タクシードライバー』のマーティン・スコセッシ監督も、移民二世という立場から現代社会を描いてきた映画作家ですね。
アキン スコセッシ監督の作品は好きだし、彼と同じように僕もアジア映画からはすごく影響を受けている。ダイアンが身体にタトゥーを入れるシーンがあるけど、そのタトゥーはSAMURAIなんだ。ダイアンが演じているカティヤは、言ってみれば現代のSAMURAI。死してなお、忠義を持って仕える。彼女の場合は、家族に対する忠義というわけさ。社会の法律とは異なる、彼女なりの武士道を持っているんだ。テクニカルな面では、照明などは香港や韓国の犯罪映画をイメージしているよ。僕自身はドイツという西側の国の映画監督だけど、ヒップホップがいろんな音楽をサンプリングするみたいに、アジア映画のいろんな要素とドイツ映画とを組み合わせて、今回の映画は撮ったんだ。
──アキン監督が愛する音楽や映画のように、現実世界もいろんな文化が融合しあった豊かな社会になればいいのにと思います。
アキン 本当にそう願うよ。僕たちがつくる映画が異文化間の相互理解や交流に少しでもつながるよう、これからもがんばるつもりだよ!
(取材・文/長野辰次)
『女は二度決断する』
監督・脚本/ファティ・アキン 音楽/ジョシュ・オム
出演/ダイアン・クルーガー、デニス・モシット、ヨハネス・クリシュ、サミア・ムリエル・シャクラン、ヌーマン・アチャル、ヘニング・ペカー、ウルリッヒ・トゥクール、ラファエル・サンタナ、ハンナ・ヒルスドルフ、ウルリッヒ・ブラントホフ、ハルトムート・ロート、ヤニス・エコノミデス、カリン・ノイハウザー、ウーヴェ・ローデ、アシム・デミレル、アイセル・イシジャン
配給/ビターズ・エンド PG-12 4月14日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー
(C)2017 bombero international GmbH & Co. KG, Macassar Productions, Pathe Production, corazon international GmbH & Co. KG, Warner Bros. Entertainment GmbH
http://www.bitters.co.jp/ketsudan
●ファティ・アキン監督
1973年ドイツのハンブルクにて、トルコ移民の両親のもとに生まれる。トルコ系ドイツ人同士の偽装結婚を描いた『愛より強く』(04)がベルリン映画祭で金熊賞を受賞。ドイツとトルコを舞台にした『そして、私たちは愛に帰る』(07)でカンヌ映画祭脚本賞を受賞。庶民向けレストランのオーナー兄弟を主人公にしたコメディ映画『ソウル・キッチン』(09)でベネチア映画祭審査員特別賞を受賞し、30代にして世界三大映画祭の主要賞を制している。その他の監督作に、アルメニア人虐殺を描いた歴史大作『消えた声が、その名を呼ぶ』(14)、青春ロードムービー『50年後のボクたちは』(16)などがある。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事