西部邁さん“自殺ほう助者”の逮捕で白紙になった「追悼本プラン」の中身とは?
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評論家の西部邁さんが今年1月に死亡した際、これを手助けしたとして、知人であるTOKYO MXテレビ子会社のディレクター・窪田哲学容疑者と、会社員の青山忠司容疑者が、警視庁に自殺ほう助の疑いで逮捕された。ともに容疑を認めているという。この一件により、あるフリー編集者が進めていた西部さんの追悼本刊行プランが白紙になった。
「西部先生は家族や医師に介護されるのを嫌ったり、『人に抗議をするときには焼身自殺をする。人生が嫌になったときには入水自殺をする』と言っていましたし、拳銃を入手しようとしていたほど“自裁予告”をしていましたが、思想の違いで対立した敵もいたので、襲撃予告のような文書を送りつけられたこともあったんです。だから、彼の死には当然の自殺だと思える一方、他殺説も流れましたから、一冊の本の中で推論を戦わせるのはどうかと企画していたんです。先生は深い考察や議論が好きでしたから、美談に終わらせないほうが喜んでもらえるんじゃないかと思いました。でも、自殺をほう助した者の存在が明らかになって、とても本の企画どころではなくなってしまいました」
西部さんは東京大学に在学時、60年安保闘争に参加。海外留学や、東大教授を経て、社会思想の評論を続けた。テレビ朝日の討論番組『朝まで生テレビ!』では、保守派の論客として人気を得て、近年でもトーク番組で独特の社会批評や人生観を述べていたが、今年1月に多摩川で入水自殺。しかし、その状況から第三者が関与した可能性が高いと、警察が捜査していた。
晩年、手が不自由だったにもかかわらず両手がロープで縛られていた状況や、そこに遺書までそろえられていたことなどから、何者かが自殺を手伝った疑いが強まっていたのである。状況だけ見れば、まるでテレビで見るサスペンスドラマのようでもあり、ネット上では「他殺説」を唱える人々も少なくなかった。
「どう見たって完全な殺人。あのくらいの年齢の人が人に迷惑かけて死ぬかよ。自殺なら一人で死ぬよ」
「遺体の両手が縛られていたというのは自殺じゃない。憲法改正を阻止したい左翼系市民グループがやったに違いない」
「口の中には小さな瓶まで入っていたらしいし、自殺するならこんな残酷な死に方を選ぶはずがない」
死の直後は、ネット上でこうした意見が飛び交っていたため、先のフリー編集者は追悼本の一部にてそうした見方を検証しようとしたわけだが、窪田容疑者は調べに対し、「西部先生の死生観を尊重して力になりたかった」などと供述したという。前夜の防犯カメラには西部さんと容疑者が一緒に歩いている姿もあり、警察は殺人ではなく自殺ほう助の容疑を確信したようだ。
ただ、これにも一部で「西部さんが自殺に同意していなかった可能性はないのか」と疑う声がある。引き合いに出されたのは、昨年、神奈川県座間市のアパートで男女9名の遺体が発見された事件だ。こちらは自殺願望のあった被害者たちから金を奪うなどして殺した事件だが、犯人は「殺人容疑」で逮捕されている。嘱託殺人か自殺ほう助か、それとも殺人か――。法的には状況の解釈で線引きされているようだが、その差は一般人にとってわかりにくく、その差を考えさせられるところだ。
(文=片岡亮/NEWSIDER Tokyo)
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