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日刊サイゾー トップ > エンタメ > テレビ  > “撮れ高”に興奮するフジのスタッフたち

『ドキュメント72時間』風番組で鮮明になったフジテレビの個性 “撮れ高”を前に興奮するスタッフたち

フジテレビ系『東京ハリコミ3ヵ月』番組サイトより

 3月27日深夜、フジテレビで『東京ハリコミ3ヶ月』なる番組が放送された。年中無休24時間営業の定食屋、街の公衆電話、浅草の花やしき、奥多摩にある秘境駅に数日間張り込み、行き交う人々の生態を観察するのが、この番組の趣旨だ。

 あからさまに既視感がある。NHKの人気番組『ドキュメント72時間』が、真っ先によぎるのだ。ある1つの場所で72時間(3日間)にわたり取材を行い、その場所で見られる人間模様を定点観測するのが、あの番組のコンセプト。かなりの部分で趣旨が重なっていると言っても差し支えないだろう。

 しかし、コンセプトが同じだからこそ、両局の手法の違いはくっきり鮮明になった。

 

■一般客にインタビューするスタッフの質問に込められた悪意

 

『東京ハリコミ3ヶ月』は、新宿にある年中無休の定食屋の店内に昨年の大みそかから定点カメラを設置している。ここまでは『ドキュメント72時間』と変わりないが、基本的に傍観者の立ち位置を崩さぬNHKの手法をフジテレビは踏襲しない。

 夕方からお酒を飲み始めた真面目そうな大学生へ、番組スタッフは取材を申し込んだ。「今、彼女はいらっしゃいますか?」という質問に、大学生はスマホを手にしながら「彼女はこの中に」と返答。待受画面に写っているのは、初音ミクである。

大学生 初音ミクです。
スタッフ いやいやいや、彼女じゃないじゃないですか。
大学生 いや、考えようによっては彼女なんじゃないですか(笑)。

「ミクさんとドライブして霧ヶ峰とか。一昨年はヨーロッパを回ってきました」と、初音ミクとのデートを振り返る彼にかぶさるのは、「ミクさんとのデートはドライブが多い」というテロップ。この演出に意図が込められていることは明白だ。

 大学生は、ヨーロッパ旅行で撮った画像も見せてくれた。そこには、シェーンブルン宮殿の前でポーズを取る初音ミクの姿がある。

スタッフ あれ、2人では写んないんですか?
大学生 ……ちょっと、まあ、システム的に厳しいですかね(苦笑)。
スタッフ システム?
大学生 まあ……。

 質問にもテロップにも編集にも、意図を感じる。それは、率直に「悪意」と呼んでよい種類のものである。

 

■確実な撮れ高に興奮するスタッフたち

 

 この定食屋には、際立った個性の常連客が存在する。女性のビキニ水着姿で来店する男性がいるらしいのだ。

 このウワサをキャッチした番組スタッフは、待ち続けた。なるほど。傍観者的立ち位置を意識するNHKとは違い、おいしいところを収めようとする欲を感じる。テレビ制作者として、当然の感情だろう。

 通称「ビキニさん」が現れるや、「来た、来た!」と興奮を隠せないスタッフたち。そして「目の前にビキニさんが現れました(笑)」と小声で実況する男性スタッフ。当然、番組はビキニさんにインタビューを申し込んだ。

スタッフ ビキニさんは男性ですか?
ビキニさん ……そうです、おっさんですから。
スタッフ ご家族は?
ビキニさん います。奥さんが1人と娘が3人、息子が1人。

 番組スタッフは、店を出て夜遊びするビキニさんに付いていった。冬の夜、新宿をビキニで闊歩する彼を見て振り返る街の人たち。「寒くないですかー?」「風邪引くなよー!」と声を掛ける男女を、カメラは逃さない。

 そのまま、2丁目のバーに訪れたビキニさん。もちろん、共に番組スタッフもお邪魔する。もはや「ハリコミ」ではなく「追跡」の格好だが、撮れ高が確実なのに付いていかない手はないだろう。

 番組を良くしたいがために、意図やツッコミや演出を盛り込むことも厭わないフジテレビ。軸がブレないよう留意し、スタンスを決して崩さないNHK。両者の手法が異なるのは当然で、むしろ同じ方が異常だ。

 あくまで“普通の人”の姿をカメラに収めるNHK。特異で際立った人をフィーチャーし、闇鍋のように紹介するフジテレビ。バラエティやドラマではなく、ドキュメンタリーでこそ差異が露わになったところが面白い。

 なんだかんだ、フジテレビもドキュメントは得意だ。これが、フジの手法である。
(文=寺西ジャジューカ)

最終更新:2018/03/31 16:00
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