葉巻と酒が手放せず、躁鬱に悩んだ宰相の決断! アカデミー賞W受賞『ウィンストン・チャーチル』
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ヒトラーはプロパガンダの天才だったが、チャーチルも後に回想録『第二次世界大戦』でノーベル文学賞を受賞するなど文才に優れ、演説にも自信を持っていた。イタリアを介してドイツと和平工作を進めるかどうかのギリギリの瀬戸際、チャーチルは議事堂で英国の命運を分けるスピーチを始める。
「ナチスに屈すると、どうなる? 中には得をする者もいるだろう。だが、鉤十字がバッキンガム宮殿やウインザー城にもはためくのだぞ。この国会議事堂にも!」
英国が降伏することは絶対にありえないと断言したチャーチルは、それまでバラバラだった議員たちの心をようやくひとつにまとめ上げ、国民の士気を鼓舞することに成功する。この後、ダンケルクから帰還した兵士たちを交え、英国本土を戦場にした“バトル・オブ・ブリテン”へと戦局は転じ、ドイツとの総力戦を行なうことになる。
チャーチル役のゲイリー・オールドマンは、『シド・アンド・ナンシー』(86)で演じた“伝説のパンクロッカー”シド・ビシャスがハマり役だったスリム体型の俳優だ。そんな彼が、日本人アーティスト・辻一弘の特殊メイクによって見事に恰幅のよい英国宰相へと変身してみせた。全身の特殊メイクに費やした時間は1日4時間。連日4時間を要したメイク中に、オールドマンは外見だけでなく内面からもチャーチルへと近づいていった。オールドマンのアカデミー賞主演男優賞受賞、彼が1940年のチャーチルへと精神波長をチューニングすることに貢献した辻一弘のアカデミー賞メーキャップ・ヘア&メイクデザイン賞受賞は、誰もが納得するものだろう。
英国のみならず、世界をファシズムの嵐から守ったチャーチルだが、第二次世界大戦が終わった1945年には首相の座を追われることになる。ナチスドイツとの戦いに総力を使い果たした英国は疲弊し、代わって米国とソ連が世界盟主となっていく。77歳になってチャーチルは再び首相となるも、かつての大英帝国の栄華を取り戻すことは不可能だった。ウィンストン・チャーチルは英国人のプライドを守ると同時に、大英帝国時代の幕引き役を務めた男として、その名を歴史に刻んでいる。
(文=長野辰次)
『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』
監督/ジョー・ライト 脚本/アンソニー・マクカーテン
特殊メイク・ヘア&メイクデザイン/辻一弘
出演/ゲイリー・オールドマン、クリスティン・スコット・トーマス、リリー・ジェームズ、スティーヴン・ディレイン、ロナルド・ピックアップ、ベン・メンデルソーン
配給/ビターズ・エンド、パルコ 3月30日(金)より全国ロードショー
(c)2017 Focus Features LLC.All Rights Reserved.
http://www.churchill-movie.jp
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