被災地の復興をめざしてホストに!? 作家・石井光太氏が歌舞伎町のホストとトークイベント
#イベント #石井光太
■児童擁護施設で過ごし、19歳でホストの道へ。
一方、陽虎は北海道の紋別出身。キリッとした鼻筋に、鋭い目つき。しかし、話している姿は、かなり素朴な印象だ。小学生の高学年の時、親が離婚し、父親に連れられ、児童養護施設に入ることになった。
「まったく知らずに連れて行かれ、頭が真っ白になってしまいました」
人見知りのため、基本はいつもひとりだった。施設に入った11歳から17歳の間、父親も母親も一度も来てくれなかった。高校も馴染めず、中退。「親を見返したい」と、数少ない友だちのつてを辿り、住まわせてもらい、ホストの道へと進んだ。
石井氏が「ホストクラブは居心地がいい?」と質問すると、「みんなすごく優しいです」と陽虎はうれしそうな笑顔を浮かべた。また、友夜も可愛がってもらっているようで、「テレビで見るような暴力的なイメージとかないし、みんなおしゃれでかっこいいです」と、これもまた意表を突かれる。
また、意外なことと言えば、ホストは女性からお金をとことん貢がせる印象が強い。けれど、実は売れないホストを捕まえて、コスパよくお金を使っている女の子が、めちゃくちゃ多いのだという。
「売れないうちは、お客さんになってくれるかもしれないと思って、夜中でも一生懸命電話に出る。それが、ほかのホストにフラれた愚痴だったりするんですけど、大変だったね、と聞いてあげる。まだ、始めたばかりの2人はそういう時代を過ごしていると思いますよ」という手塚氏。
それを受け、石井氏が「俺、パシられてるなと思った体験はある?」と友夜に聞くと、「僕のお店にも来てくれている女の子が、ほかのホストクラブでベロベロに酔っ払って、投げ出されちゃって、僕のお店のビルにいる、って電話を受けて、そのまま介抱するということはありました」と生真面目に答え、「なんか、エロいね!」とツッコミ、会場がどっと盛り上がった。
■伝説のホスト直伝、モテるには?
また、歌舞伎では、あわよくば同伴へ持ち込むべく、出勤前に外でごはん食べようよ、と誘うそうだが、その時の暗黙のルールがある。
「おもしろいことに歌舞伎町のホストって、誘った時には男が払うんです。でも、女の子、帰っちゃうみたいなことは、よくあるよな?」と手塚氏が語ると、友夜が「しょっちゅうありますね。来てくれる確率は、まばらですけど、10回に4回ぐらいですかね」。
なんだか聞いているうちに、ホストもつらいよ! と聞こえてきそうだ。石井氏が何か質問がある人? と聞くと、観客からはパパパッとあちこちで手が上がった。
女性客から、「女の方がずる賢かったりするので、傷ついたりしてないですか?」と質問があると、陽虎は「正直、ないです。ひとりカラオケで発散します(笑)」とあっけらかん。つづけて、手塚氏が「どんなに売れっ子でも、絶対に振られるんです。20人ホストがいたら、19人は振られる。傷つくという話でいうならば、どれだけ傷つくことに鈍感でいられるかが重要かもしれないですね」と、なんともカッコイイ答えが返ってきた。
最後に、ものすごくマジメそうな顔立ちの男性客から、「男に生まれたからには、モテたいです。どうすればモテますか?」と、妙に決意のこもった質問も飛び出した。
それに対して、手塚さんが紳士に対応し、「隙がある人じゃないですか? 付き合ってくれるかもしれないな、と思わせる。男版ぶりっこですね。すごくかっこよすぎるとモテない。キャバ嬢もそうなんじゃないかな」。
知られざるホスト事情や歌舞伎町に関する、記事では言えないギリギリすぎるトークに、会場のボルテージはどんどん上がる一方だった。“傷ついたホスト”たちは、確かに存在した。けれど、傷に押しつぶされることなく、驚くほど清々しく、たくましく生きていた。
(文=上浦未来)
●石井光太(いしい・こうた)
1977年東京生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。国内外の貧困、戦争、事件などをテーマに、アジアの障碍者や物乞いを追ったルポルタージュ『物乞う仏陀』(文藝春秋)で2005年にデビュー。『絶対貧困』(新潮社)、『レンタルチャイルド』(同)、『遺体』(同)、『浮浪児1945-』(同)、『「鬼畜」の家』(同)、『世界の産声に耳を澄ます』(朝日新聞出版)など、多数のノンフィクション作品を発表。2013年に初の小説『蛍の森』(新潮社)を上梓。近著に『43回の殺意 川崎中1男子生徒殺害事件の深層』(双葉社)など。
●手塚マキ
1977年埼玉県生まれ。ホストクラブ、バトラーズクラブ、バー、ヘアメイクサロン、ワインショップなどのお店を構える「Smappa!Group」会長。大学中退後、歌舞伎町にある人気ホストクラブ「スティンガー」に入店。入店後1ヶ月という奇跡的な短期間でナンバーワンに登り詰めた。ホスト業界初のボランティア団体「夜鳥の界」を中心となって立ち上げ、深夜の街頭清掃活動を行うなど、既成の枠にとらわれない柔軟な発想と、天性のリーダーシップで活躍の場を拡げている。歌舞伎町商店街振興組合理事でもある。
●陽虎(ハルト)
19歳、北海道紋別市出身。「スマッパ・ハンス・アクセル・フォン・フェルセン」在籍のホスト。父子家庭で育ち、10歳の時児童相談所に行き、11歳~17歳まで施設で育つ。高校中退後北海道紋別市のカラオケ店に就職した後、2017年の夏に東京に上京した。
●友夜(トモヤ)
23歳、岩手県大槌町出身。「APiTS」在籍のホスト。高校1年時に東日本大震災にて被災。復興関係の仕事をするため公務員専門学校に進学するもオイスターバーで店長・料理長経験を積み、現在に至る。
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