『快楽ヒストリエ』マンガ家・火鳥《楽しい日々》へのささやかな恩返し
#歴史 #インタビュー
だから、昔はTwitterでも、思ったことをなんでもつぶやいてましたが、今は、自分がマンガでやろうとしていることに逆行する弱音なんかは言わないようにしようと。明日も立ち向かわなきゃいけない人が、一時の笑いを得てくれればいいんです。ぼくのマンガに人生を導かれる人はいないでしょうけど……一時の元気を与えることはできるかもしれない。負の感情があったら、ぼくがせき止めて、世界に笑顔を増やさなきゃいけないと、それが自分の持てる矜持です。だから、結石になった時も、マンガにしたんです。その時も喜んでもらえたから……石ができてよかったありがとうと思ったんですよね。
若い頃に漠然と憧れていた、名作や大作というものからは離れているかもしれませんが……いい意味で、自分の居場所を見つけて、長くマンガを描き続けることが大切かな……描かないとね!
* * *
その日の東京は数年ぶりの大雪だった。
長いインタビューの後、喫茶店から外に出ると、すでに地面は真っ白に化粧していた。繁華街の目抜き通りには、人の姿の少なく、しんとした風景の中に雪だけが舞っていた。
《北海道の出身ですから、寒くはないのではありませんか?》
《懐かしいですけど……やっぱり寒いのは寒いですよ》
最寄りの地下鉄の駅までのわずかな道のり。上を見上げると、雪と靄にすっかり包まれた高層ビルが見えた。
《霧が晴れたら、塔は高いんですよね》
答えようがなかった。
《プロになろうと思っていたけど、いざ声をかけられたら、怖かったんです》
でも、あなたはマンガ家になる夢を叶えて、一躍人気作家になったではないか、と思った。
《プロになった時に、目指す頂きがとても高いのが見えたから……》
地下鉄の入口まで火鳥を見送ったあと、雪の中の静まりかえった道を歩いた。なぜか、雪を避けて駅に入る気にはならなくて、数駅も歩いた。どうして歴史の女神は、いま私が一時を共に旅したような人生へと火鳥を導いたのだろうかと思った。
《でも、今までたくさんの人に、いろんなものをもらってきたから……》
雪の町に人の姿は少なかった。誰も歩いた跡のない真っ白な道が、まっすぐに続いていた。
《だから……》
と、火鳥はいった。
《すこしでも返さないといけないと思っているんです》
(文=昼間たかし)
Twitter:@minatohitori
pixiv:火鳥(ヒトリ)
https://www.pixiv.net/member.php?id=194211
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