ライブ業界が直面する“3つの問題”とは――? 『ライブ・エンターテイメントEXPO』 特別セミナー受講レポート
チケットキャンプがテレビCMを始め、大々的にチケットの転売を始めたのが2015年。高額転売目的に大量のチケットを取る行為が問題になった。すぐに危機感を抱いた関係団体が対策を協議し始めたが、転売を禁止する法律がなかった。
そこで打ち出した対策は3つ。
(1)立法化の働きかけ
(2)倫理観に訴える
(3)公式のチケットトレード制度を作る
立法化に向けて画期的だったのは、17年9月に神戸地裁が出した判決だ。チケット転売で詐欺罪に問われた男性に対し、懲役2年6カ月、執行猶予4年を言い渡したのだ。これは「チケットはコンサートを観に行くために販売されている」という前提に立ち、転売目的でチケットを購入するのは、販売者を欺いているという理由からだ。
そのような背景もあり、『チケットキャンプ』はサービスの停止に追い込まれた。これらの措置により、今後の立法化に向け、大きく前進したのだ。
次に倫理観についてだが、これは多くのアーティストが、チケットが高額転売されているという実態を広く訴えていくことが肝要だ。16年8月には、転売防止対策の一つとして、日本音楽制作者連盟など4つの業界団体と116組のアーティストが共同声明をWebサイト上で発表。この声明は、朝日新聞と読売新聞(いずれも朝刊)にも掲載され、大きな話題となった。
そして、昨年6月には音楽業界初の公式チケット販売サイトとして、ぴあ株式会社が運営する『チケトレ』のサービスが開始される。これにより、チケットは原則定価での売買が可能となった。
実は、今回の『ライブ・エンターテイメントEXPO』では、一般の展示エリアで、電子チケットや顔認証など、チケット転売対策の技術も多く見られた。それらの対策と合わせ、今後は「本当に見たい人が、適正な価格でチケットを購入できる」制度の確立が進んでいくものと思われる。
■会場不足問題
近年、東京厚生年金会館の閉鎖や、渋谷公会堂の改修による閉館など、中規模会場の減少は、多くの人も感じているのではないかと思う。これらは老朽化によるものだが、加えて、2020年の東京オリンピックの会場となるため、さいたまスーパーアリーナ、日本武道館、代々木第一体育館などの施設が改修時期も含め、長期間使用できなくなる。
現在、ライブ・コンサートの動員比率は、スタジアム・アリーナ40%、ホールクラス34%、野外・ライブハウスが17%となっており、ホール・アリーナクラスが占める割合が多い。ここをどう賄っていくかが、大きな課題なのだ。
予定を見ると、渋谷公会堂 は19年に改修が終わり、豊島公会堂も同じ頃に再開予定だ。有明アリーナも、オリンピック後には一般利用が可能となる予定。そのほか、全国に会場が新設される。これらは主にアリーナクラスが多いため、動員比率が変わっていく可能性がある。
東京に一極集中せずに、近隣の地域や全国各地の施設を有効活用していくことで、問題は解決していくだろう。
■アルバイト不足問題
コンサート会場を設営する上で、アルバイトの人材は欠かすことができない。
もう20年以上前になるが、私も学生時代にコンサートスタップのアルバイトをしたことがある。確かに環境は厳しかった。前日の夜から、ヘルメットをかぶって重い機材を運んだり、ただひたすらに椅子を並べたりしていたものだ。しかし、厳しいながらも「憧れの音楽の仕事に関わっている」という高揚感のようなものがあり、今では楽しかった思い出になっている。
しかし、その環境が近年変わってきているという。
ひとつは、運営側の大雑把な管理体質にある。例えば、設営の仕事を募集した場合、どのくらいの人数が必要かは舞台監督が決める。しかし、そこではコスト感覚が希薄な場合が多く、「とりあえず多めに頼んでおく」という風潮がある。そのため、実際バイトが行ってみると、キャンセルになって帰されたりすることがあるそうだ。
また、現場の雰囲気は体育会系であることが多く、厳しい言葉が飛び交うこともあるという。
昔はそれでも「音楽の現場にいる」という魅力が上回っていたが、現代の若者は、あまりそのような意識はなく、厳しいところには人が集まらない。
加えて、バイトアプリなどで、条件の良いところが検索できたり、バイトの評判などがネット上で広まったりするので、厳しいコンサートスタッフなどには人が集まらなくなっているのも実情だ。
これらの事象に対する対応策としては、適正な人数を把握して発注することや、二次派遣会社と協力して、人数の調整をすること(余った場合は賃金を支払う)などが検討されている。また、労働環境を見直すことも、必要な対策とのことだった。
以上、主に3つの問題について語られたが、最終的には「業界内の問題を職種を超えて共有すること」が重要とのことだった。今まで、ともすれば別々に動いていたものを有機的に結合し、連携を取って課題解決に動くということだろう。
ここからは個人の感想になるが、「エンターテイメント」というのは、ビジネスとしての側面と、文化事業としての側面があると思う。
そして、それを文化事業という観点から見た場合、そこに参加する観客、つまり我々もその事業を成り立たせるために欠かせない存在であるということを認識することが大切だろう。
違法と分かっているチケットを購入したり、今回は取り上げられなかったが、著作権を犯すような使い方をしたりすれば、長い目で見た場合、文化事業継続を苦しめていることにもなるのだ。
我々も、エンターテイメントを作っている一人だという意識を持てば、より誠実に、より楽しく公演を楽しめるのではないだろうか。
(写真・文=プレヤード)
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