男たち女たちはなぜ競うのか? カンパニー松尾がキャノンボール、アイドル、テレクラ、AVを語る【前編】
#アイドル #映画 #インタビュー #AV
■非AV監督が『キャノンボール』に新しい波を起こす!?
──今回の『アイドルキャノンボール』に参加した監督たちですが、『テレクラキャノンボール2013』からずいぶん顔ぶれが変わってきました。
松尾 変わりました。『テレクラキャノンボール2013』は僕やバクシーシ山下ら50代の監督、そして40代の中堅監督、30代の若手監督たちの世代間抗争も見どころになっていました。40代のビーバップみのる、タートル今田は『BiSキャノンボール』でも活躍しましたが、今回は2人とも人生いろいろありまして出場していません。その代わりに参戦したのが『遭難フリーター』(09)という社会派ドキュメンタリーで監督デビューした岩淵弘樹、普段はアーティストのプロモーションビデオを撮っているエリザベス宮地という若手の非AV監督たちなんです。今回は『テレクラキャノンボール』ではなく『アイドルキャノンボール』ということもあり、監督の幅も広げています。パンツを脱ぐ脱がないに関係なく闘うことができる新ルールになっています。
──『遭難フリーター』は秋葉原殺傷事件後に派遣社員の苛酷さが社会問題になっていたこともあって、日刊サイゾーでも取り上げました。岩淵監督はその後、松尾さんのいる「ハマジム」の社員になっていたんですね?
松尾 岩淵は派遣社員、介護関係の仕事を経て、2014年ごろかな、「ハマジム」に社員として入ってもらい、ネット配信の業務を担当してもらいました。ネット配信の数字が残念ながら目標値に達しなかったので1年間の契約で終わりましたが、岩淵は非常に仕事ができ、酒癖は悪いけれどとても熱いものを持っている男です。もう1人のエリザベス宮地は社員経験することなく、ずっとフリーの映像監督としてやってきた男。『BiSキャノンボール』ではサポートカメラマンとして入ってもらいました。宮地は中2病より、もっとすごい小6病をこじらせ続けているような男です。会社経験がないこともあって、小中学生の感覚をそのまま持っているわけです。『キャノンボール』は人選が重要ですが、この2人は『キャノンボール』のことをよく理解しているし、心根の部分ではとても健全な人間なんです。それに『キャノンボール』って、例えばSEX自慢のAV男優を参加させても面白くないんです。男優ってカメラをスタートさせ、カットの声を掛けるまでは積極的に動きますが、『キャノンボール』は「スタート」の声を掛ける前から、そしてカットを掛けた後も撮り続けないとダメなんです。AV監督を経験していない岩淵と宮地ですが、彼らにはそれができる。彼らがパンツを脱ぐのか脱がないのかも含めて、今回の『アイドルキャノンボール』の見どころになっていると思います。
──『テレクラキャノンボール2013』で活躍した若手AV監督の嵐山みちるは『BiSキャノンボール』に続いての参戦ですが、わずか数年見ないうちに、頬が痩け、眼光をギラつかせた別人のような外見になっていることにも驚きました。AV業界のハードさを感じさせます。
松尾 今、AV業界は薄利多売の時代になっていて、嵐山みちるは月8本ペースでAVを撮っているんです。月8本ペースは異常です。人間が壊れるペースですよ。普通は半年か1年しか保たないはずですが、彼はもう2年間もそのペースで撮り続けています。アイドルのようなルックスだったのに、忙しすぎて愛嬌がなくなってしまっている。そういった時間の流れも感じてもらえると面白いかなと(笑)。
■アイドル病棟と化した6日間の合宿生活
──もはや人間ならざるAV監督や社会派ドキュメンタリーから流れてきた監督たちがカメラで追うのは、彼らとは真逆な清純さを売りにしたアイドルやアイドル候補生たち!
松尾 水と油の関係です。相容れない素材でドレッシングを作ろうっていうんだから、まぁ分裂しますよね(笑)。
──一見、清純で健気そうに見えるアイドルたちですが、彼女たちもまた競い合う。勝利者チームは敗者チームの持ち曲を奪うことができるというルールによって、グループ間で激しい抗争が勃発し、思いがけず大きな問題に発展していく。一度自分が手に入れたものは絶対に他人に渡したくないという、女の“業”を感じさせました。
松尾 アイドルたちの競争意識を煽るために導入された新ルールでしたが、合宿所内が曲奪い合い合戦に向かってしまい、そのことに僕は戸惑ってしまった。でも、そんな予想外の展開のお陰で、もう一本映画が公開されることになったので、結果的には良かったかなと。
──6日間のオーディション合宿はどうでしたか?
松尾 つらかった(苦笑)。近くにコンビニがないような一般の合宿所だったんですが、食事がね。箸が進まない上に、量がハンパなく多い。それを毎朝8時、昼12時、夕方6時と毎日決まった時間に同じメニューを、みんなで食べるという……。刑務所とは言わないけど、軍隊のような生活でした。人間ね、食生活が満たされていないと脳の働きも低下して、闘う気力も湧いてこないんですよ。
──アイドルのオーディション合宿というよりは、隔離病棟のように見えました。
松尾 ほんとそう。合宿所を抜け出して、コンビニまで行って帰ってきた人は、すごく生き生きして戻ってくるんですよ。一度でも外の空気を吸うと、「合宿所には戻りたくない」とみんな思ってしまう。僕も1~2度、コンビニへ行きましたが、セブンイレブンで呑んだコーヒーがすごく美味しかった。合宿所に戻るのがイヤになりましたね。食事のシーンを盛り上げるために激辛のデスソースを用意したんですが、あれもつらかった。カレー好きな僕が食べても、死ぬかと思いましたよ。アイドルたちはがんがんデスソースの入った食事を平らげていましたけど、真似しないほうがいい。彼女たち、最初は嫌っていたのに、途中から進んでデスソースを手にするようになりましたからね。プー・ルイも「あの合宿はおかしかった」と話しています。
(インタビュー後編へ続く/取材・文=長野辰次/撮影=尾藤能暢)
『劇場版アイドルキャノンボール2017』
監督/カンパニー松尾
出演/BiS、BiSH、GANG PARADE、WACKオーディション参加者、渡辺淳之介、高根順次、平澤大輔、今田哲史、カンパニー松尾、バグシーシ山下、アキヒト、梁井一、嵐山みちる、岩淵弘樹、エリザベス宮地
配給/日活 2月3日より渋谷HUMAXシネマほか全国順次公開中 R15+
(C)2017 WACK INC. / SPACE SHOWER NETWORKS INC.
http://idol-cannon.jp
●カンパニー松尾
1965年愛知県春日井市出身。テレビ番組の製作会社勤務を経て、AV制作会社で働くようになり、87年に安達かおる率いるV&Rプランンングに入社。88年に『あぶない放課後2』で監督デビュー。全国のテレクラを回った『私を女優にして下さい』や『燃えよテレクラ』は人気シリーズとなる。95年にV&Rプランニングを退社し、フリーのAV監督に。2003年にAVメーカー「HMJM(ハマジム)」を立ち上げ、現在に至る。レース形式でAV監督たちが目的地までのスピードとナンパした女性とのエッチ体験を競い合う『テレクラキャノンボール』は97年からスタート。『テレクラキャノンボール2009 賞品はまり子Gカップ』はその年の「AVグランプリ」にてプレス賞を受賞。『テレクラキャノンボール2013 賞品は神谷まゆと新山かえで』は2014年に劇場公開され、大反響を呼んだ。その他、劇場公開された監督作に『劇場版BiSキャノンボール』(15)、『劇場版BiS誕生の詩』(17)がある。
http://www.hamajim.com/home.php
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