アニメファンによる実写映画へのコンプレックスが丸出しなのは否めない……「映画芸術」のアニメ外し騒動
#映画 #アニメ
アニメと実写の溝は、とにかく深い。
ずいぶん前の話……もう10年も前のことだと思うが、映画関係者と雑談しているときに、こんな会話をしたことがある。
「なんか、三坂さんが、アニメ界で有名な人と結婚したらしいよ」
三坂さんとは、女優の三坂知絵子のことである。へぇ~と思って、「誰なんですか?」と尋ねたところ、相手はしばし考えた。
「え~と、海なんとかって人……」
海……と聞いて「それは、もしや新海誠ではありませんか?」と尋ねると、相手は大きくうなずいた。
「そうそう。有名らしいけど、何作ってる人?」
すでに『秒速5センチメートル』(2007年)も話題になっている頃だったが、実写映画の世界での認識は、そんなものだった。
でも「モノを知らないヤツらだなあ……」と、バカにすることなんてできない。
だって『君の名は。』(16年)で、新海誠が一躍注目されていた頃、どこかのニュースサイトの見出しを見て驚いた。その見出しには「新海誠の嫁は女優の三坂知絵子だった」と、何かのスクープのように書かれていたからだ。
知っている人には「刺身には醤油をつけると美味い」と書いているのと同レベル。でも、知らない人には興味深いことだったのだろう。
そのことを思い出したのは、今、アニメに造詣の深い人たちが、我も我もと言及している雑誌「映画芸術」(編集プロダクション映芸)をめぐる問題を知ったからである。
同誌が一年に一回発表する「日本映画ベストテン&ワーストテン」から今回よりアニメ映画を除外したことに、怒りの声を上げる人は数限りない。
これをめぐっては、同誌の関係者の中にもさまざまな声があったことが「日本映画ベストテン&ワーストテン」を掲載した同誌462号収録の討議からもわかる。これによれば、映画評論家の吉田広明氏は、アニメを除外することに反対して選考委員を辞退。一方、討議に参加した同誌発行人の荒井晴彦氏らは、アニメを除外することについて持論を語っている。
「映画芸術」のスタンスについては、さまざま意見があってしかるべきだろう。ただ、ここぞとばかりに怒りの声を上げているアニメ関係者の姿は驚くほどに奇妙だ。
いったい「映画芸術」という雑誌をどのような雑誌と思っているのだろうか。
確かに同誌は1946年に創刊された伝統ある雑誌である。とはいえ、その実態はミニコミ誌。仄聞によれば発行部数は2,000部に過ぎないという。かつては、一流と呼ばれる映画雑誌が忌避していたポルノ映画も積極的に取り上げていたラジカルな雑誌であるし、そのパトスも残っているかも知れない。でも、実態は、一部のマニアを除けば誰も読んだことがない、荒井氏が個人で発行している雑誌というのが、正しい評価である……。個人的なことをいうと、筆者は学生のときに、こういうものを読んでいればカッコイイと思って「映画芸術」を買ったことがあるが、まったく内容は頭に入らなかった。
いわば同人誌に、アニメ業界の「名のある」人たちが、よってたかって怒りの声を書き連ねている姿は、やはり奇妙だ。
何が多くの人々の闘争心に火をつけているのか。ある有名アニメライターに話を聞いたところ「匿名で頼むよ!」と言った後、「アニメファンでも、わかっていない人がいるんだよね」と前置きして、次のように語った。
「アニメが人気と信じて疑わないアニメファンというのは、とても多いんです。そういう人たちが『実写映画のヤツらにバカにされた』と、コンプレックスを丸出しにしているだけですよ。ただ、『映画芸術』が昨年1位に選出したのが、アニメ『この世界の片隅に』だっただけに腑に落ちないのはわかりますが……」
実写映画でもCGが当たり前のように使われたり、実写とアニメの垣根がなくなった時代にあって、この「映画芸術」が下した決断は、確かに逆行している。
でも、その思想の持ち主が、個人の雑誌で「うちは、今年からこの方針でいくんだ」と頑固一徹を貫いていることを、とやかくいう必要があるのか……。
(文=昼間たかし)
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