『アウト×デラックス』けうけげんの“お笑い偏愛”に震える……1,000組の「架空芸人」はどこへゆく?
#お笑い #フジテレビ #マツコ・デラックス
同じくマツコがイケメン2人組「サーキュレーション」のカードを選ぶ。
「サーキューレーションは人力舎のコンビなんですけれども~」
「あ、実際にいるの?」
「いないです」
あまりに自然に語るので思わず尋ねてしまったマツコの質問を、無慈悲にシャットアウトするけうけげん。罠のような流暢さ。
窓の外に芸能人やUFOが現れるため、気が散って相談内容が頭に入ってこない、という架空のコンビの架空のコント内容を延々語った後、「それでキングオブコントの準決勝にいきました」と、まるで現実のように架空の実績まで語る。
準決勝に「いけそうなクオリティ」とかではない。もういってるのだ。彼の中では。
さらに「このときは『カテナチオ』が優勝してるんです」と、怖いことを言うのだが、もちろんこのカテなんとかも実在しない。マセキ芸能社所属の10年目で「あちらのお客様から」と、バーデンダーが酒をバーカウンター上で滑らせるネタで優勝したらしいのだが、もちろん実在しない。いない。そんなネタもないし、優勝もしてない。しかし彼はきれいな目で、あの日、宮城の自室で産み出した自らの分身の活躍を愚直に教えてくれる。
■1,000枚の手書きの分身
このカード総数は、約1,000枚。コンビ名部分を隠してランダムに似顔絵を見せられ、一瞬考えたあとに、「あ! これ、THE TLEE(ザ・ツリー)です!」と百人一首のようにけうけげんが当てるくだり。本当に何を見せられているのか、わからなかった。わからないが、心が疼いた。
彼を紹介した人物・櫛野展正氏によれば、この架空芸人たちはコンビ解散して、ピンになったり別の人とコンビを組んだりすることもあるらしく、その時は消しゴムで消し、描き直されるらしい。生きた「架空」なのだ。
水島新司が、彼の描いたキャラクターを実在のプロ球団に入団させ活躍させた『ドカベン プロ野球編』、それの若手芸人版と考えるとわかる気もするが、誰に見せるでもなく、ただしたためていたかと思うと、やはりおののく。
自分の好きな野球選手をかき集めてドリームチームを考えたり、それこそ『ベストプレープロ野球』や『ダービースタリオン』のようにゲームで「架空」を作り上げるという楽しみ方はあった。しかしその題材が若手芸人であるというのが珍しい。
前述の櫛野氏は、彼が芸人への強すぎる憧れを抱きつつ、しかしながら家の都合などで地元を離れられない中で「制限された現実世界とは別の仮想世界を生み出すことで、彼はなんとか自分を保っているのかもしれない」と考察する。何かに縛られながら、それでもできる範囲で、あふれ出る想いを燃やし続けた結果、いびつな形に焼き上がったのが、彼の分身ともいうべき「架空の芸人」たちなのかもしれない。
いくら1,000の架空の「ネタ」があるといっても、ネタ案と、出来上がって人前で演じられるネタはまるで別物だし、大喜利投稿の才能と芸人の才能は重ならない部分も多いだろう。この番組をきっかけに彼の存在が一部の人以外にも知られるということは、それだけ批評の目にも晒されるということになるのかもしれない。
しかし、それでも、この悲しいほどのあてどない初期衝動が、ボロボロの紙に業のように刻み続けた不恰好な何かが、何処かにたどり着くのを見てみたいと思った。今後を見守りたい。
(文=柿田太郎)
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