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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 広瀬すず『anone』で“影の魅力”開花
ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」

広瀬すずは『anone』で開花する──“大先輩”田中裕子の芝居にも呑まれない「影の魅力」

 ハリカを演じるにあたって、広瀬は髪をばっさりと切った。ハリカの姿は少女にも少年にも見える中性的なたたずまいだ。まるで、彼女の持つスケボーに描かれている天使のようで、ファンタジックな本作の象徴のような存在である。

 その意味でも、今までにも増して難しい役柄である。彼女自身、どう演じていいのか迷ったらしいが、次屋尚プロデューサーから「今までの広瀬すずでいい」と言われたことで開き直り、今の演技になったという。

 華やかなキャリアを重ねている彼女だが、実は広瀬すずの魅力は光よりも影の部分、今にも消え去ってしまいそうな弱々しさの中にあるのではないかと思う。

『anone』は、そんな彼女の影の部分がとても際立っていて、無表情でぽつんと立っているだけで見ている側を切なくさせる。

 それがよく出ているのが、ハリカの今にも消え去ってしまいそうな自信なさげに語られるか細いナレーションだろう。

 弱々しい声で切ないナレーションをさせると一番上手いと思う女優は深津絵里だと思っていたが、本作の広瀬すずの声は、深津に匹敵する切なさがある。

 カノンとチャットで会話するゲーム場面で、文字を読み上げるダイアローグに感情移入できるのは、彼女の今にも消え去りそうな声があってのものだ。

『anone』が広瀬すずにとって幸運なのは、阿部サダヲ、小林聡美、瑛太、田中裕子といった実力のある先輩俳優と共演できることだろう。

 特に田中裕子との芝居は、彼女にとって大きな経験となるのではないかと思う。

 田中の芝居は圧倒的で掴みどころがないため、我の強い俳優ほど、自分のリズムを崩して田中の世界に呑み込んでしまうところがあるのだが、第2話で広瀬が絡んだ際には、田中の芝居に対し善戦していたように見えた。これは、広瀬の演技が、いい意味で主張が弱いからだろう。

 広瀬を見ていると、主演女優に必要なのは自分を押し通す我の強さではなく、全体を包み込むような、おだやかな輝きだと実感する。ハリカを演じることで、その資質はより開花するはずだ。

 本作で彼女が女優としてどこまで成長するのか? 注目である。
(文=成馬零一)

●なりま・れいいち
1976年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

◆「女優の花道」過去記事はこちらから◆

最終更新:2018/01/31 18:00
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