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日刊サイゾー トップ > エンタメ  > ケーシー高峰“83歳の矜持”を見た

『報ステ』極寒の景勝地で下ネタ連発! コメディアン・ケーシー高峰“83歳の矜持”を見た

■荘厳な神社を背景に、お構いなしの“レイプネタ”

 

 ケーシーは、雪舞う夜の山に美しくライトアップされ、小さく映っている。

「酒田地区は庄内美人といって、すごく美人が多い」という説明のあと、大名に見初められた女性の昔話を、あまり聞き取れない口調で語っている。

「(昔)大名が来たときね、そのお嬢さんは大名に呼ばれたからって喜んで行ったらしいんです。ところが3人の大名が、代わる代わるその女性を犯してしまった」

 おそらく2人のアナは、話を見失っていた。だから不意に聞こえた「犯す」という言葉を、そのままの意味で受け取れていなかったかもしれない。画面が、雪化粧された厳かな雰囲気の神社に、ゆっくりとクロスオーバーした瞬間、ケーシーの声だけが飛び込んでくる。

「これを医学用語で『3金交代』(と言う)」

 レイプジョーク。ゆるやかに笑う2人。「どこまでがほんとなのかね(笑)」と戸惑う小川アナ。大本音だろう。あらゆる言葉を駆使して一生懸命取り繕う2人の声にかぶって「まずいこといっちゃったか、コレ?」というケーシーのボヤキが漏れ聞こえる。画面には白雪を纏った大きな鳥居が映っているだけ。荘厳なるミスマッチ。

「白衣着てると、すぐこういうこと言いたがるんだ」というケーシーに「しょうがないですよね、そういうスタイルで、ずっとやってらっしゃいますから」と職業病的なフォローをする富川。

 しかし極寒の中、火がついたケーシーは止まらない。

 出身地の最上の名産・ナメコの話で「今、もうね、寒いからナメコになっちゃいました」とストレートな下ネタを吐き、弱っている小川アナをさらに居たたまれない笑顔にさせる。

「すみません寒いところ(笑)、ナメコにはなってないですけども」謝りつつも返す刀で他人のイチモツ事情を否定する富川。シモだとわかって否定したのか、単にバカのふりをして誤魔化したのか。おそらく、どちらでもなく、富川は本当にわかっていなかったのかもしれない。もう捌ききれなくなっている。

 何度かオチ前にフリを潰してしまっている場面も見られたが、逆にフリだと思って泳がせていたら、この現場までソリで自分を運んでくれたスタッフに感謝を述べているだけでオチがないときもあり、その“どっちだかわからなさ”が異様な緊張感を生んでいた。裏を返せば、それくらいケーシーの前フリが自然なのだ。50年近く前からこの雰囲気を完成させているのだからスゴい。

 そしてクライマックス。結局あまり玉簾の滝に触れていないと言われたケーシーは「あんまり知りません、ここは!」とぶっちゃけ、小川アナを爆笑させつつ油断させたその直後、

「すでにね、パンティの中がタマスダレになってます」

 と、純度の高い下ネタを投下。小川アナの表情を一気に死に体に変化させる殺人コンボを炸裂させた。パンティて。

「あまり知りません」と言われたとき、小川アナは「ズコ~」とハットリくん並みの擬音を言いつつ喜んでいたのに。一寸先はタマスダレだ。

 

■「東電への嫌がらせ」

 

 もうこのとき、すでにケーシーの姿は雪まみれ。ネットでは「かわいそう」だとか「不謹慎」だとか「ひどい」「お年寄りなのに」といった声も多かったが、この日、間違いなくドクター(ケーシーの愛称)は攻めていた。ただやらされてるお年寄りという構図ではなく、明らかに自らネタを仕込んで、隙あらばぶち込み、ウケることを楽しんでいた。この日、売れようとしているかのごとく。

 すでに師匠ほどの年齢、立場なら、いくらでも断ったり、手を抜いて切り上げることもできる企画内容だ。山形出身という事実があれば、あとは「いれば」成り立つだろうし、事実このロケのあと、すぐ台本を覚えないといけない仕事が控えていて、帰りに近くの温泉に立ち寄る余裕もないと言っていた。なのに、雪まみれのこの仕事を受けた。

 この日、ケーシーは白衣を着ていたが、その上に羽織ったダウンの前が開いてることが余計に寒そうに見え、「非難」が加速したのかもしれない。

 これもあくまで推測だが、前を閉じず白衣を見せたかったのは、おそらくケーシー自身だ。首元にちゃんと見えるように聴診器を掛けていたことからも、そのこだわりを感じる。漫才からコンビ解散、医者を目指していたという経歴を生かし、ゼロから築いた医事漫談。それは米寿を目前にしてなお、彼の中に息づく核だろう。

 真面目な俳優としての一面が大きくなるにつれ、その反動からか、芸人としてのこだわりは増しているように見える。

 東日本大震災直後、『笑点』(日本テレビ系)で「放射能の本場・いわき(30年間在住)から来ました」とカマしたことに対し「あれは東電への嫌がらせ」とハッキリと語った(3年前の文化放送『大竹まことのゴールデンラジオ』)姿勢からも、彼の根底にある強さがうかがえる。

「何かあったらどうする」というクレームももちろんわかるが、15年ほど前に舌がんを克服し、その間も書き文字だけで舞台をこなし、いまだ高座に立ち続ける彼が、この「ひどい」仕事に意欲的に取り組んでいたという目線は、最低限どこかに持っていたい。

 何はともあれ、ドクターが風邪引くことなく台詞を覚えられたのかどうか、今週の『報ステ』で報道して欲しい。お疲れさまでした。
(文=柿田太郎)

最終更新:2018/01/29 17:00
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