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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.464

野生動物を狩る“トロフィーハンティング”の実態! キリンが解体される現代のモンド映画『サファリ』

 アフリカを舞台にした本作を観て思い出すのは、クリント・イーストウッド監督&主演作『ホワイトハンター ブラックハート』(90)だ。『ホワイトハンター』でのイーストウッドは、ハリウッド黄金期の大監督ジョン・ヒューストンに扮している。ヒューストンは冒険活劇『アフリカの女王』(51)の撮影のためにアフリカ南部を訪れるが、巨大なアフリカゾウを狩ることに夢中になっていく。黒人差別やユダヤ人叩きをとことん嫌うリベラリストのヒューストンながら、地上でもっとも高貴な生き物であるゾウを自分の手で仕留めたいという願望から逃れられなくなってしまう。野生動物を狩ることはこの世の罪であることを認めながら、「許可書さえ買えば、誰でも犯せる罪だ。だからこそ、その罪を犯してみたくなる」と心の中に渦巻くドス黒い衝動を抑えることができない。

解体小屋の様子。解体作業に従事しているのは地元住民たちで、残された肉は彼らに支給される。

 ジョン・ヒューストン、そしてクリント・イーストウッドの心の中でとぐろを巻く黒い欲望の正体に、本作のカメラは迫っていく。アフリカゾウは姿を見せないものの、大草原きっての優雅さを誇る大きなキリンが倒されるシーンが後半には待っている。かつては神獣扱いされていたキリンが絶命する瞬間、スクリーンの中の空気は巨大な神木が切り倒れたかのように、おごそかなものになる。だが、空気が凝縮したのは一瞬であり、仕留めた白人ハンターと彼が同伴した美しい妻が満足げな表情で記念撮影を始め、空気はどんよりと弛緩していく。彼ら白人ハンターの普段の職業は本作では明かされないが、トロフィーハンティングに関する資料を読むと、裕福な欧米人、特に医者が多いとある。医者たちは多くの人々の命を救った手で、ライフルを握り、大草原で生きる高貴な野生動物たちを狩っているわけだ。

 カメラはさらにトロフィーハンティングの暗部へと進んでいく。すでに冷たくなった野生動物はトラックに乗せられ、プレハブ風の小屋へと運び込まれる。解体作業に従事するのは地元の人々だ。シマウマの縞模様の毛皮は剥ぎ取られ、大地を駆った頑強な脚は斬り落とされる。そしてキリンはお腹を割かれ、大きな大きな内臓が取り出される。狩りを終えた白人ハンターたちが必要なのは勝利者トロフィーとしての猛獣たちの首、角、毛皮だけであり、残された肉塊は解体作業で汗を流した地元スタッフへの報酬として与えられる。余計なナレーションによる解説はなく、黒い肌をした地元民が黙々と肉をほおばる姿が流れるのみである。白人ハンターたちが雄弁なのに対し、彼らは冷たい視線でカメラをただじっと見つめ返す。

 これは現代の首狩り族の物語だ。多くの欧米人は、心の中に首狩り族を飼っている。そして年に一度か二度のバケーションの際に、心の中の首狩り族を異境の大草原で解き放ってみせる。文明社会から解放された喜びに溢れ、首狩り族は実弾を込めた祝砲を次々と撃ち続ける。心の中に首狩り族を飼っているのは、欧米人だけではない。きっと日本人の心の中にも、黒い衝動は隠されているはずだ。
(文=長野辰次)

『サファリ』
監督/ウルリヒ・ザイドル 脚本/ウルリヒ・ザイドル、ヴェロニカ・フランツ
配給/サニーフィルム 1月27日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラム、2月3日(土)よりシネ・リーブル梅田ほか全国ロードショー
WDR Copyrights(c)Vinenna2016
https://www.movie-safari.com

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最終更新:2018/01/26 19:55
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