憧れの存在には、いつまでも輝き続けてほしい。哀歓系コメディ『ピンカートンに会いにいく』
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美紀(山田真歩)をはじめ、かつてのメンバー3人は芸能界をすでに引退して、普通の主婦となっていた。家族や子どもたちの手前もあって、再結成にはあまり気が進まない。だが、美紀たちのモチベーションの低さ以上に大きな問題があった。かつて優子とケンカ別れした葵を呼び戻すことができなければ、「ピンカートン」は再結成したことにはならない。優子と葵が20年ぶりに仲直りできるかどうかが、グループ再結成の大事な鍵だった。
人生の先が見えてきた現在とキラキラと輝く未来が待っていると信じていたアイドル時代とが交錯する形で、ストーリーは進んでいく。20年前、優子(小川あん)と葵(岡本夏美)はグループ内でいちばん仲がよかった。一緒にオーディションを受けにいき、「他のアイドルたちが全員死ねばいいのに」と2人で毒づきあいながら、ブレイクできずにいる悶々とした日々を共に過ごしてきた。優子と葵はいちばんの親友であり、いちばん身近なライバルでもあった。それゆえに、一度壊れた関係を修復するのは容易ではない。再結成を前に、仲直りを勧める他のメンバーたちに対して、優子はなかなか素直になれない。心で思っていることとは、真逆な言葉を吐き出してしまう。
「大人になったら仲直りって言わないんだよ。それって謝罪っていうんだからね!」
毒づくことが習慣化してしまった“超痛い女”優子をリアルに演じているのは、インディペンデント系映画で売れっ子の実力派女優・内田慈。本作が映画初主演となる。優子がライバル視してきた葵の20年後を演じるのは、ドス黒系ミステリー『愚行録』(17)での“学園の女王さま”ぶりが印象的だった松本若菜。朝ドラ『花子とアン』(NHK総合)の女流作家役などクセのある役がうまい山田真歩らがこれに絡む。優子、葵のアイドル時代を演じた小川あん、岡本夏美たちもこれから人気が出てきそうな逸材。かつての仲間が再び集まるというプロットは韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』(11)からのいただきだが、毒は吐くのに、胸の中の本音は口にできない主人公たちの面倒くさい心理描写に坂下監督の独自のセンスを感じさせる。
物語の後半、優子とプロデューサーの松本は、消息のつかめない葵を探して回ることに。グループ解散後、葵は事務所を移り、優子と同じように地味に芸能活動を続けていた。葵の元マネージャーだったという男を見つけるが、「過去にすがって、懸命に生きるのって痛いよね」と元マネージャーは葵のことを冷笑する。それまでずっとちぐはぐだった優子と松本だが、このとき2人は一致団結して、この元マネージャーをボコボコにする。かつて自分が憧れた存在には、いつまでも輝き続けてほしい。だから、自分にとってのアイドルやライバルをディスる奴は、到底許すことができなかった。
20年の歳月を経て、優子と葵はお互いの心のわだかまりを消し去ることができるのか。優子と葵との20年ぶりの遭遇シーンが、本作のクライマックスとなる。おばさんになった「ピンカートン」の再結成ライブの行方は、映画を観てのお楽しみだ。最後にひとつ言えることは、優子は40歳を前にして、言い訳をしない自分の生きる道を見つけたということ。長年の呪いから、ようやく自分を解放することに成功した優子。目の前に広がる厳しい現実は変わらないものの、彼女の人生がこれから始まろうとしていた。
(文=長野辰次)
『ピンカートンに会いにいく』
監督・脚本/坂下雄一郎
出演/内田慈、松本若菜、山田真歩、水野小論、岩野未知、田村健太郎、
小川あん、岡本夏美、柴田杏花、芋生悠、鈴木まはな
配給/松竹ブロードキャスティング、アーク・フィルムズ
1月20日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
C)松竹ブロードキャスティング
http://www.pinkerton-movie.com
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