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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.462

憧れの存在には、いつまでも輝き続けてほしい。哀歓系コメディ『ピンカートンに会いにいく』

ブレイク寸前で解散してしまった伝説のアイドルグループ「ピンカートン」。20年ぶりの再結成ライブは実現するのか。

 自分がブレイクできずにいるのは、事務所の営業努力のなさやプロデューサーたちに見る目がないからだ。映画『ピンカートンに会いにいく』の主人公・優子(内田慈)はそう思い込むことで、芸能界の片隅で辛うじてこれまで生きてきた。オーディションに落ちる度に、周囲に毒を吐く人生だった。アルバイトをしながら、タレント&女優として成功するという夢にしがみついてきたものの、30代も後半となり現実のシビアさが肌身にヒリヒリと沁みるようになってきた。『ピンカートンに会いにいく』は、夢は願い続ければきっと叶うという能天気な青春ドラマでもなければ、主人公が大人になる成長ドラマでもない。ずっとネガティブ思考に囚われ続けてきたひとりの女性が、人生のスタートラインに立つまでを描いたとても慎ましい物語だ。

 本作を撮り上げたのは、大阪芸術大学映像学科&東京藝術大学大学院映像研究科出身の坂下雄一郎監督。1986年生まれの新鋭監督だ。新しい才能の発掘を目的にしている「松竹ブロードキャスティング」が制作した勘違いコメディ『東京ウィンドオーケストラ』(17)で商業デビュー。続いて低予算映画の地方ロケの惨状をブラックコメディ化した異色作『エキストランド』(17)も公開され、再び「松竹ブロードキャスティング」と組んだ『ピンカートン』と、デビュー1年目にしてオリジナル脚本のコメディ作品が3本劇場公開される期待の存在。若手監督らしく『ピンカートン』にはまだ洗練されきっていない、レアな感情と毒っけのある笑いが注がれた新鮮みのある作品となっている。

 今や毒吐きおばさんと化している優子だが、実は20年前に5人組のアイドルグループ「ピンカートン」として芸能デビューを果たしていた。勝ち気な性格の優子がリーダーを務めていたが、シングル曲「Revolution now」をリリースしてこれからというときに、あっけなく解散してしまう。一番人気だった葵がソロデビューするという噂が流れ、グループ内に確執が生まれたことが原因だった。

グループ解散後は芸能界の底辺で生きてきた優子(内田慈)。レコード会社に勤める松本(田村健太郎)と他のメンバーたちを訪ねて回る。

 20年前はグループが解散しても、若い自分にはまだ明るい未来が待っていると信じていた。でも、いつの間にか自主映画の死体役とかパチンコ店のイベントのMCぐらいしか仕事は回ってこない状態に。さらに散々ディスってきた所属事務所からは、契約解除を言い渡されてしまう。40歳を目前にして、人生真っ暗闇となる優子。芸能界でスポットライトを浴びるという夢は、いつの間にか自分自身への呪いと変わり、優子を雁字搦めに縛り付けていた。

 だが、捨てる神あれば拾う神もあり。そんなドン底状態の優子に、一本の蜘蛛の糸が垂れ下がってきた。不完全燃焼で終わった「ピンカートン」の再結成ライブをやろうという奇特なプロデューサーが現われたのだ。レコード会社に勤める松本(田中健太郎)は、少年時代に「ピンカートン」の大ファンだったが、楽しみにしていたライブを観ることなく彼女たちは芸能界の表舞台から去ってしまった。憧れの存在だった「ピンカートン」に、ちゃんとライブをやらせてあげたい。ちょっと頼りなさげな松本の提案に、優子はもったいぶりながらもすがりつくしかない。

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