教科書の用語半減案は、歴史オタの危機だ! むしろ……もっと詳しく掲載してくれ!!
#歴史 #教育 #昼間たかし
坂本龍馬もロベスピエールも、教科書から消滅してしまう? 高校の日本史B・世界史B教科書に収録する用語の半減案が注目を集めている。
現行では最大で3,800語ある用語を半分に減らそうというものだ。この案で「必要なし」として例示されている中には、坂本龍馬のような超有名人も。坂本龍馬といえば、歴史上欠かせない人物のはず。いったい、どういう理由があるというのだ。
この提案は、教員などでつくられる高大連携歴史教育研究会が「高等学校教科書および大学入試における歴史系用語精選の提案(第一次)」として発表したもの。
ここで示された半減案は、実は理にかなっている。というのも、1950年代には1,300~1,600語だった教科書に掲載される歴史用語が、21世紀初めには3,400~3,800語と、3倍近くまで増加。結果、授業ではすべてを処理することができない事態にもなっているという。
用語が増加した理由のひとつに挙げられるのが、大学入試。長年にわたって、大学入試では教科書にはほとんど触れられていない、場合によっては、記述すらないような用語まで出題される事例があった。教科書会社は、そうして出題された用語を次々に教科書に追加。その結果、覚えるべき用語が膨大なものになっていったのである。
本来、歴史教科書は、歴史の積み重ねがあって現代があることを理解させることを目的のひとつとしている。けれども、大学受験を前提にした結果、ひたすらに用語を覚えるだけの勉強になってしまった。
実際、大学入試において、ほとんどの大学は用語と年号を覚えるだけで十分。センター試験は、それで満足のいく点数が取れる。流れを論述しなければならない問題は、一部の難易度の高い国立大学の2次試験で出題される程度だろう。
そうした受験優先の教科書に対する問題意識が、今回の提案となっているわけだ。
そのため、資料で示された扱うべき歴史用語からは、かなりの用語や人名が削除されている。世界史では、エジプト古王国・中王国・新王国も、ロベスピエール、ワーテルローの戦いなどが削除。日本史では、武田信玄、上杉謙信、桶狭間の戦い、坂本龍馬も教科書本文から削るべきと提案されている。
つまり、歴史の流れを理解させることを重視する視点からだと、まずロマンがありそうな人物や用語は消えることになるわけだ。
これは一大事である。例えば武田信玄、上杉謙信の川中島の戦いも、大きな視点で見れば単なる地方大名の勢力争い。桶狭間の戦いも同様。坂本龍馬も歴史に刻まれるべき一大事業を成し遂げたわけではないということ。
教科書的には正しいことかもしれないが、やはり人が歴史に魅力を感じるのは、その登場人物の生き様のようなもの。それが抹消され、大きな“流れ”だけ与えられても、何の魅力もないものになってしまう。とりわけ歴史ジャンルの愛好家にとって、これは大きな危機だろう。昨今、新書『応仁の乱』(中央公論新社)のヒットを経て『観応の擾乱』(同)も話題の本になった。観応の擾乱なんて、それこそ教科書でも、ほとんどオマケのようなもの。でも、そこに魅力を感じる人が多いのは「教科書では用語として覚えるだけだったが、これは一体なんだったのか」という探究心が芽生えるから。
歴史の授業が丸暗記するだけのものになるのは、学習の方法論や入試システムの問題。もしも、歴史の流れを理解するのであれば、これでも用語は足りない。世界史においても、例えば「フランス革命でなんで国内は大混乱になったのか」を理解するには、ロベスピエールを削るどころか、フーキエ・タンヴィルとか、プレリアール30日のクーデターとかもっと記述すべき用語のほうが多いはず。そして、歴史クラスタは、これらの用語に魅力を感じ、さらなる探求を始めるのだ。つまり、教科書の用語が減るのは、歴史クラスタにとっての大きな危機。その視点を忘れてはならない。
(文=昼間たかし)
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