『嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい本』40原が語る“パンツ愛”そして、これから
#インタビュー #同人誌 #昼間たかし
次はどうしようと考えて見つけたのは、大型スーパーの品出しだった。深夜の店内で、配送されてきた食品や雑貨を陳列する仕事。深夜のアルバイトで働く同僚には、一風変わった人が多かった。今まで出会ったことのない人々との交流に、少し興味がわきながらバイトしている頃に、震災があった。
「これから、経済も悪くなるから、うちで就職しなよ」
社員の気持ちはうれしかったが、そうしてしまうと、もう絵を仕事にすることができないような気がした。また、なんだかんだ理由をつくって辞めた。
文字通り、浮き草のような時間。「要は、挫折しちゃっていた」と、40原は思い出す。絵を描きたいという思いはあった。だから、絵は描いていた。イラストなのか落書きなのか、自分でもよくわからないものを描いていた。
ただ、幸運にもスキルアップする機会があった。卒業した専門学校からのつながりで、アートプロジェクトを運営する会社でアルバイトをすることになった。
仕事は、所属アーティストのアシスタント。仕事の合間に、自分も絵を描いているといえば、当然、見せる話になる。持参したいくつかの作品を見てもらった。どんな評価を下されるのか、心臓が昂ぶる沈黙の時間。すっと顔をあげたアーティストは、こう言った。
「上手いけど、パソコンの使い方をわかっていないから、教えてあげるよ」
すでに多くの作品で世界的な評価を得ているアーティストにマンツーマンで教わる、CGアートの基礎。それまでは、半ば見よう見まねの自己流だった描き方は、技術を得て、みるみるうちに上達していった。
それでも、まだ浮き草は、根を下ろさなかった。
「これから、どういう風に生きていこうか」
そんな時、作業の合間にネットサーフィンをしていて、ふと一つの取材記事にたどり着いた。それは、マンガ家・西原理恵子が自身の上京してからの青春期を語っているインタビュー記事だった。
美大の門を開いたら、自分が最下位。この世界で勝負するのは無理だっていう、そのくらいの客観性は持ってましたね。
イラストレーターは無理。イラストレーターはもっといい雑誌で絵を描くでしょ。だから、イラストじゃなくてカット描きをやろうと思った。
ミニスカパブでバイトしていると歌舞伎町のスゴイ現実もたくさん目にする。お金がなくて、ああなったらどうしようという気持ちは、後ろからエイリアンが追いかけてくるようなものだから、とりあえず、何も考えずに、「売り込みしかねぇぇぇー」と、ただ焦っていたわけです。
絵の仕事で月30万稼ぐことが目標だった。
それが大学の3年の時にできた。ほんとにうれしかったですね。これで東京でやっていける。もうミニスカパブに行かなくていいんだって。
当時は、1カット600円ぐらいから始まって、次第に1枚3000円ぐらいになった。それを月に100枚描くと30万円。
(nikkei BPnet こうして逆境を越えた
西原理恵子:エロ本のカット描きから始まった仕事。プライド捨てて「売り込みしかない」http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090526/155497/?P=1)
一度最後まで読んで。もう一度頭から読み直して。そして、同じところだけを何度も読んだ。
専門学校を卒業してから、数年間の自分のやってきたことを思い出した。
「ボクは、こんなんじゃダメだ。考え方が間違っている」
自分のふがいなさを嘆いていたのではない。感動していたのだ。アニメーターをやっていた時の自分には、西原のような考え方はなかった。1枚動画を描けば200円。それを月に1,000枚描けば……なんて、考えたこともなかった。何も根拠もないままに「自分の限界はここだ」と心の中で線を引いて、その外へと挑戦していこうとする気概もなかった。
「自分のやりたいことで、食べていこうなんて思うのは間違っている」
自分のやりたいことで食べていくんじゃない。まずは、絵でお金をもらって食べていく。そのことを感がなくてはいけないと思った。
にわかに自信が湧いてきた。「自分と西原さんを比べた時にはどうだろう」。描いている絵のスキルだけで比べたならば、自分のほうがスキルがある。自分のほうが、綺麗で上手な絵を描いているのは間違いない。「西原さんは、自分よりもスキルがないのに、のし上がっている」。だったら……。
「自分は、どうにか食べていく道があるはずだ」
西原が、食べるためにと必死に描いていたのは、エロ雑誌のカット描き。なら、現代にそれに匹敵するものはなんなのだろう。西原は、イラストレーターではなく、カット描きだといっている。そうなのだ。自分には、その視点が描けていた。アルバイトの合間に描いている絵も、作家性のようなものを重視していて、流行の絵がどんなものかなんて、考えたことがなかった。「西原さんが、やったように、今、もっとも使ってもらいやすそうな絵柄とジャンルを探そう」。それは、すぐに見つかった。
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