『嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい本』40原が語る“パンツ愛”そして、これから
#インタビュー #同人誌 #昼間たかし
現在、40原は30歳。「嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい」にたどり着くまでの道程には、さまざまな希望と偶然とが交錯している。
生まれ育ったのは、三多摩の西武線沿線。ごくごく平凡に育った中で、唯一違っていたのは、父親がレンタルビデオ屋通いを、ほぼ日課にしていたこと。
「父親が、映画が大好きでTSUTAYAによく行ってたんです」
記憶にあるのは、まだ6歳。幼稚園だった時のこと。父親に、何か好きなものを借りていいと言われた。店内を回って、アニメコーナーへ。ふと、見つけたのが『機動警察パトレイバー』。
「パトカーがロボットになってる!」
まだ6歳の40原に『機動警察パトレイバー』が、どんな作品なのか知るよしもなかった。でも、ジャケットに描かれたパトカーと合体したかに見えるロボットは、少年ならではの、好奇心に火をつけた。凡庸な家庭なら「それは、大人のアニメだよ」などと、もっと子ども向けの作品を薦めるもの。でも、そうではなかったのが、40原の幸運だった。
家に帰って、ワクワクしながら観た『機動警察パトレイバー』。思っていたのとは違って、あまりロボットは出てこない。でも、40原は、6歳にして何かに魅入られたように、この作品にハマった。旧OVA版から、テレビ版。新OVA版に、劇場版。
出会ったのは、ちょうど劇場版2が公開される1年ほど前。劇場版2のレンタルが始まった時も、父親に借りてもらおうと楽しみにTSUTAYAに向かった。でも、何度出かけても、すべて貸し出し中。その焦燥感は、少年の胸の中に、期待値をどんどん貯め込んでいった。
「あんなの、6歳くらいの子どもが見るようなものじゃないですよね。でも、レンタルできてからは、何度も見ました。ラストのバトルだけ何回も見たりだとか……」
今でも、押井守は大好きだという40原。
振り返って見た結果といってしまえば、それまでだけれども、もう少年の進むべき人生は、ある程度決まっていたのだと思う。都心のターミナルへつながる最寄り駅の周囲は、少しばかりのチェーン店と古ぼけた商店街。その周囲に、ずっと広がるのは団地と住宅地。三多摩地域の風景は、23区とはまったく違う。都会とも地方都市ともつかない街で、友人たちとつるみながら少年は成長していった。
とりわけ、40原の記憶にあるのは中学生の時に5人ばかりの友人とつくった「プラモデル部」。集まって、ただひらすらにプラモデルを作り続ける、勝手に立ち上げた部活動。高校に進み、水彩画に熱中するようになってからも、やはり集まる仲間は、何か創作をすることに喜びを感じるヤツが多かった。漠然としていた将来の進路も、次第に固まってくる。
「進路を決める時期になって、何人かがアートの専門学校にいく。だったら自分もそうしようと手を挙げたんです」
池袋にある創形美術学校で、3年の学びを終えて、40原が職を得たのはアニメ制作会社だった。まだ20代になって間もない40原がなりたかったのは、イラストレーターであなく、アニメーターだった。だからといって、単に業界の片隅に席を置くことができれば満足なんて、矮小な気持ちはなかった。
自分の力で、アニメーションでひとつの作品をつくりたい。そのための技術が欲しかった。作りたい作品の方向性は、当時の流行からは、かけ離れていた。
「『ロボットカーニバル』とか『迷宮物語』とか。大友克洋とか今敏の作品が、ものすごく好きだったんです」
でも、その第一歩となる動画マンとしての仕事で、彼は早くも挫折した。いや「挫折」ではなく、自分が向いてないと気づいたのだ。まず、動画から原画になるまで1年か2年。そこまでは、下積みの日々。原画も、動画検査があって、二原があって、ようやくたどり着くところ。そこから、キャラクターデザインとか、演出へと進む。自分の作品をつくることができる可能性のあるところまで、たどり着くのは40歳半ば。「長いな。これは飽きちゃう気がするな」。40原の望みは、作品を作ること。おまけに初任給も5万円。コンビニでバイトしたほうがいい金額なのに、先輩からは怒られる。こんな安い給料は、おかしいはずなのに、みんな妙に納得していて、おかしいとすら思わない。
「向いてない。向いてないから……辞めよう」
決断は早かった。
でも、これからどうすればいいのか。
とりえあえず、バイト暮らしの日々が始まった。最初は、個人営業のビデオレンタル店。やたらとアダルトビデオコーナーの大きい店では、興味を惹かれる人間模様が渦巻いていた。毎週1回、必ずアダルトビデオを10本借りていく客。週末になると、仲むつまじげに来ているカップル。その男性のほうが、平日にこっそりとアダルトビデオをレンタルする。家族連れで訪れる父親も、やっぱり一人で来た時には、アダルトコーナーに直行する。そこには、秘め事を覗き見ているような楽しさがあった。
地域では、アダルトビデオの品揃えでは、どこにも負けていなかったその店も、時代の流れと大手チェーンには抗しきれず、あえなく閉店。次に始めたのは、イタリアンが売りのファミレスの厨房。
「1年くらいピザを捏ねていたんですけど、そうすると、次第に責任ができてきて……」
ピザを捏ねるだけなら、楽なアルバイト。でも、バイトでも古株になっていくと、必然的にやるべき仕事は増えていく。釜から出された熱々のピザを素手で皿に載せて、見栄えよく飾り付けする。パスタやら何やらと、どっちを向いても熱くてつらい。フライパンの中で飛び跳ねる油は、時給には見合わない。
これは、やっていられない。
意を決した40原は、就職が決まったとか、なんだかんだ理由をつけて辞めることにした。店長や同僚たちに「おめでとう」と見送られ、むずかゆい思いもしたけど、とにかく脱出には成功した。
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