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日刊サイゾー トップ > カルチャー  > 『嫌パン本』40原の“パンツ愛”
西原理恵子の生き様が人生の分岐に──

『嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい本』40原が語る“パンツ愛”そして、これから

(C)40原

 それは誰もが、はたと足を止める魅力を放っていた。

 10月初頭の夕刻、秋葉原の雑踏。ふと、手に入れたい本があるのを思い出して、秋葉原駅に降りた。電気街口の改札を抜ける。買い物に訪れた観光客の笑顔。待ち人の元へと逸る足音。メイド喫茶の客引きの乙女の甲高い声。それらをかき分けて目指したのは、同人ショップ・とらのあな秋葉原店A。ひとまず、新刊の並んだ1階をぐるりと一周眺めてみる。それから、エレベーターの前に立つ。ちょうど扉は閉まって、上へ上がっていく。間の悪さに、ふっとため息をついて、横にある階段を眺める。雑居ビル前とした、狭っ苦しい階段。目指す7階までは、遙か摩天楼の上のよう。

 一度7階まで昇った後に、再び降りてくるエレベーターを待つべきか。いや、そんな無為な時間を過ごすのはイヤだ。第一、一度目の前で扉が開いたエレベーターは、地下1階へと降りていくに違いない。

 短い人生に、待ちの時間はもったいない。階段に足をかけ、少し早足で上へ上へ。こんな時には、何も考えないのが正解。無心にならなければ、途中で荒い息を吐き出して、気分も逆立ってしまうもの。18禁の揃ったフロアで荒い息をしているのは、センスがない。途中、乱れたネクタイを直しながら、2階、3階。

 まだまだ、半分も登ってない。

 でも、ようやくたどり着いた4階フロア。そこで、片手を手すりについたまま、ふっと足が止まる。もう、体力が尽きたのではない。そこの陳列に、瞬時に心を奪われたのだ。

『嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい本』

 そんな文字と、文字そのままに、女のコたちが嫌な顔をしながら、パンツを見せているイラスト。そして、写真。

 ああ、そうだ。これは、全年齢向けなのだ。当たり前だ。描かれているのは、パンツを見せている姿だけ。セックスはもちろん、キスだって描かれてはない。

 こんなにも売れているのか。

 フロアの入口を埋め尽くすように、縦と横とに積まれた同人誌と写真集の山。イラスト集が3つ。マンガが1つに、写真集が1つ。それに、コラボしたエロライトノベル。店が全力で売りたいと励む作品。そして、売れると判断した作品。多くの人が欲しがる作品。その迫力を見て、思う。

「もう一度、明日のインタビューを練り直さなくてはいけないな……」

 いきなり足を止めたためか。息はずっと荒かった。

(C)40原

 どうにも会ってみたくなる作品と作者との出会いは、いつも偶然。『嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい本』も、やっぱりそう。昨年の夏のコミックマーケット。いつもの買い物を終えて、何かないかと漫然と会場の人混みに揉まれていた。そんな時、目に飛び込んできたのが、シリーズの第2作。巫女さんが、こちらに背中を向けながら、嫌な顔してパンツを見せている作品。

「ちょっと見せて下さい」

 一言断って、ページをパラパラとめくる。すぐに、ポケットから千円札を取り出した。

 これは、買うべき本である。

 それが、今回インタビューすることになった40原(しまはら)の<現在の>代表作である『嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい本』との出会いである。

 すぐに千円札を取り出した理由は、極めて単純。ハッとしたのは、ページの構成だ。単にパンツを見せているイラストだけではない。嫌な顔のイラストを描いているだけでもない。右ページに、書名通りのイラストを配置。そして、左ページには、描かれた女のコたちの日常っぽい顔。職業などのプロフィール。そして、パンツを見せている時の台詞。それらが、一つの塊となって目に飛び込んでくる。M男向けだろうか。いや、そんなに単純ではない。単なるM男向けという要素を超えている。左ページの日常風景のような表情。そんな顔を見せているであろう日常は、プロフィールによって、さらに想像力を喚起する。見開きのページが、妄想スイッチを全開にして、見ているだけでどんどんと、ワクワク感が募ってくる。

 単なる性的な興奮ではない。もっと複雑で、楽しい何か。自宅に帰って、パラパラとめくるたびに、その独特の楽しさを何度も味わえる。楽しめるエロティシズム。直接的な「実用」とは違う、独特の満足感。以来、この同人誌は、ずっと本棚の中でも「保存する用」を分類している一角に刺さっている。

 夏には3冊目も発行され、その安定感のある作画とキャラクター設定に、また興奮した。グッズや、フィギュア化などの情報も見てはいた。でも、ぐっと作者に会って話を聞きたい<ひっかかり>ができたのは、写真集の発売である。タイトルは、やっぱり『嫌な顔されながらおパンツ見せてもらいたい写真集』(一迅社)。1日に一度はチェックしているニュースサイト・アキバブログで、その表紙を見て瞬時に<ひっかかり>ができた。写真集のカメラマンは青山裕企。フェテッシュな能の痺れを生む『スクールガール・コンプレックス』『絶対領域』で知られる人物。カメラマンの腕か、モデルの力量か。とにかく、ルーティンでやっている雰囲気ではない、まさにイラストの世界が三次元になったらこうなるという姿がそこにはあった。

 そこまで、カメラマンやモデルを本気にさせる作品力。それが、同人誌で発売された3冊のイラスト集。そして、1冊のマンガにはあるのだと、確信させる。そんなことに気づけば、インタビューをせずにはいられない。

 どんな人が描いてるのだろう。

 どうやって、このテーマにたどり着いたのか。

 どんなパンツが好きなのか。

 こんなに人気を得ていることを、どう思っているのか。

 これまでどんな人生を送ってきたのか。

 聞いてみたいことは次々と浮かぶ。何よりも、イラストを見た時に改めて感じる燃えるようなもの。フィギュアやグッズ、写真集へと、次々と燃え広がっていく、熱いものの根源を見たいと思ってやまなかったのだ。

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