「東京五輪・メディア施設は新設すべき」ビッグサイト使用計画に、数々の五輪を見た放送関係者からも疑問の声
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五輪のメディア施設は、放送の拠点となる国際放送センター(IBC)と、新聞社など主に紙媒体が使用するメインプレスセンター(MPC)の2つからなるが、前者は膨大な収益をあげる最重要施設なのである。それは、ちょっとした地方局数十個分クラスの巨大な放送局のようなものだ。
「メディア施設は、開催都市が場所を決めて電力や通信などのインフラを整備します。その上で、約1年前……リオの場合、半年前になってしまいましたが……IOC参加のオリンピック放送機構(OBS)が内部の設備を設置するという役割分担になっています」(同)
東京ビッグサイトを使用する場合、まず問題になるのは膨大な熱を発する放送機器への対処だ。既存の冷房設備ではまったく追いつかず、増設は必須。それを、どのように配置するのか。また、電源設備なども新たに増設しなくてはならない。
廣谷氏の試算では、東京ビッグサイトを使用した場合には、約800億円の費用がかかるとされている。これに対して、成功例とされるロンドン五輪では、建物を新設したにもかかわらず当時の為替レートで447億円から639億円(土地代を除く)。仮設設備を追加するための造作や、耐規模な仮設会場の新設が必要になり、既存施設を使うメリットは、どこにもない。
「ロンドンの場合、五輪後にメディア施設を改修してヨーロッパ最大のメディアセンターとして利用しています。それに比べると、東京五輪は、やっつけでやっていることは否めません。10年後、20年後のレガシーを考えていないんですよ」(同)
混迷が続く東京五輪。それに対して、次回次々回の開催都市では既に使用する施設も決まり、具体的な準備に入っている。
「2024年のパリ五輪では、ル・ブルジェ見本市会場。2028年のロス五輪ではNBCユニバーサルのスタジオが使用される予定です。とりわけ後者は五輪を利用して、さまざまな文化や技術を宣伝しようとする戦略があります」(同)
スポーツの祭典という部分ばかりが注目されるが、五輪は文化・技術の宣伝の場としての側面も大きい。とりわけ東京五輪で注目されるのは、今後主流になるであろう4K・8Kでの放送技術だ。
「とりわけIOCは8Kに関心を持っています。競技の動画を最高の素材で保存しておけば、様々な形で転用ができるからです。2020年までに4Kテレビが普及するかどうかは別として、必ず8Kでの記録は行われます。NHKでは既に技術者を死にものぐるいで養成していますし、ソニーやパナソニックなどの企業にとっても自社の製品や技術をPRする格好の場になるでしょう」(同)
さらに、五輪を文化を宣伝する場として使うならば、なおさら東京ビッグサイトは避けるべきであるとも、廣谷は考えている。
「パリ五輪の場合、ル・ブルジェ見本市会場は、航空ショーが頻繁に開催される空港も近い。そうした五輪関連のイベントも想定しているのでしょう」(同)
近年の開催都市では、五輪を都市が世界から注目される場とみて、オリンピック競技だけでなく、各種関連イベントを開催するようになっている。そのためにも、メディア施設は新設し、東京ビッグサイトは通常通りに使用するというのが、もっとも効果的なのである。
「1964年の東京五輪は、高速道路や新幹線が建設されて日本が敗戦を克服して近代国家となった姿を見せる場となりました。10年後、20年後を考えるならば、メディアセンターとして利用するために、かなり手を入れなければならない東京ビッグサイトは、発信の場に使ったほうがいいんです。それとは別にメディアセンターの建物の新設するのは難しいことではありません。二階建ての飛行機の格納庫みたいな、簡単な建物でよいのですから」(同)
場当たり的な計画の積み重ねの結果、東京五輪は開催まで1,000日を切りながらも、まったくお祭りムードを感じさせてくれない。むしろ失敗の恐れのようなもののほうが、色濃いのではないのか。
会場と選手村などをつなぐ環状2号線も、築地市場の移転が不明確で工事中のままだ。既に完成した橋も、風雨にさらされ、日々悲惨な姿になっていっている。
新設か、それとも、既存の計画のままで突き進むのか。誰も明確な解決策を打ち出せないまま、タイムリミットだけが迫っている。
(取材・文=昼間たかし)
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