映画界に投入された人間爆弾・小林勇貴の早すぎる自叙伝『実録・不良映画術』が爆裂的に面白い!!
#映画 #本 #長野辰次
高校卒業後は東京のデザイン会社に就職した小林監督。やがて映画好きな上司に勧められ、映画づくりを決意。書店に並んでいた映画製作についての本を読破しまくることで、独学で映画監督としてのノウハウを学んでいく。そうやって週末ごとに富士宮に戻って撮影したのが、地元で起きた不良たちのヤバい事件の数々をベースにした『NIGHT SAFARI』(14)や『孤高の遠吠』といった驚異の自主映画だ。昔からヤクザ同士の抗争が多く、ヤクザと創価学会が争ったこともあるという歴史を持つ富士宮という街で生まれ育ってきた男たちの、身体に染み込んでいる暴力衝動が連鎖反応的に爆発してく解放感&陶酔感がそこにはある。いつも心に爆弾を。それが小林監督作品だ。
小林監督のヤンチャぶりは映画の宣伝スタイルにも現われている。ぴあフィルムフェスティバル(PFF)の同窓会パーティーでは、来場した塚本晋也監督や白石晃士監督らPFF出身の人気監督たちにPFFのスタッフのふりをしてお土産用の手提げ袋を次々と手渡す。袋の中には小林監督が撮った『NIGHT SAFARI』のDVDが入っていた。さらにはライムスター宇多丸のラジオ番組で『孤高の遠吠』を宣伝するために、ポスターを貼るポスティング会社のスタッフに変装してTBSに潜入してみせる。エレベーターを降りた時点で番組スタッフに取り囲まれるも、このときも小林監督は自慢の新作をしっかりとアピールすることに成功した。小林監督の無軌道っぷりには清々しさすら感じてしまうではないか。
そんな小林監督が撮った初の商業映画『全員死刑』は、映画会社や芸能プロダクションにおもねることなく、さらに危険度がアップしている。兄・サトシ(毎熊克哉)にそそのかされ、暴力団組長の次男・タカノリ(間宮祥太朗)は昔からの遊び仲間を金銭目的のために絞殺するが、殺人という行為そのものにタカノリが興奮し、アドレナリン全開となっていく姿を生々しく描いてみせる。映画初主演となる間宮祥太朗の熱演もあって、ハンパない猛毒映画として仕上がった。
『実録・不良映画術』の終章で小林監督はこのように書き記している。
「本当にあった事件をモチーフにしたことで、ああだこうだと言うヤツがいる。それはそれで当然に思う。見世物小屋で頭はってるんだ、石投げられて当然だ。その怒りを受け止められないようでは職務怠慢だと思う。
俺は受けて立つ。
だけど言わせて貰えば、人が恐怖を語り継ぐこと、すでに起きてしまった事件を何かの作品に昇華させて語り継ぐこと、これは大昔から人間がずっとやってきた大事なことだと思う」
商業映画シーンにおいても、腹を括ってみせた小林監督。12月9日(土)には渋谷アップリンクにて早くも最新作『ヘドローバ』が公開される。『ヘドローバ』は不良しか住んでいない団地を舞台にした抗争エンターテイメントらしい。常識に囚われない男・小林勇貴監督はこれからの日本映画界でますます暴れ回ってくれるに違いない。
(文=長野辰次)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事