映画界に投入された人間爆弾・小林勇貴の早すぎる自叙伝『実録・不良映画術』が爆裂的に面白い!!
#映画 #本 #長野辰次
福岡で実際に起きた連続殺人事件を題材にした間宮祥太朗の初主演映画『全員死刑』(配給:日活、東京テアトル)の劇場公開が11月18日から始まった。ヤクザ専門のノンフィクションライターとして知られる鈴木智彦の『我が一家全員死刑』(コアマガジン、小学館文庫)を原作に、危険な匂い充満するこの映画を撮り上げたのは1990年生まれの小林勇貴監督だ。静岡県富士宮市出身の小林監督は地元の不良たちを大挙出演させた実録不良映画『孤高の遠吠』(15)が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2016」オフシアター・コンペティション部門部門グランプリを受賞したばかりの新鋭ながら、速攻での商業デビューを飾ってみせた。そして『全員死刑』に合わせて出版された小林監督の早すぎる自叙伝『実録・不良映画術』(洋泉社)が小林監督の映画と同様に爆裂的に面白い!
タカシ、キヨシ、ヒロシに憧れていた──という言葉のセンスから常人とは違う。タカシ=『殺し屋1』(01)の三池崇史、キヨシ=『CURE キュア』(97)の黒沢清、ヒロシ=『リング』(98)の脚本家・高橋洋なわけだが、日本映画を代表するバイオレンス&ホラー映画の巨匠たちを、小林監督はまるで『BE-BOP-HIGHSCHOOL』の登場キャラクター呼ばわりである。タカシ、キヨシ、ヒロシたちが残してきた日本映画界の伝説史に、きっとユーキも新しいページを書き加えてくれることだろう。
小林勇貴監督がいかにして商業監督デビューを果たしたのか、その道のりを書き記した『実録・不良映画術』は、彼の生い立ちから始まる。幼少の頃から『エイリアン』(79)や『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)などのモンスター映画ばかりを母親から見せられ続けたというスパルタ式英才教育を施され、アーノルド・シュワルツェネッガー主演映画を見ながら「ほら、これがあんたの本当のお父さん」と教えられたそうだ。小学校では小林監督が楳図かずおの『漂流教室』や望月峯太郎の『座敷女』などのヤバい漫画ばかり持ってくるため、小林文庫は教室出禁となり、その代わりに小林監督は山本英夫の『殺し屋1』の問題シーンをノートに模写して友達に読ませていたという。やがて模写に飽きて、友達同士のケンカをオリジナルの実録漫画にするなど、実録系バイオレンス映画を得意とする映画監督としての萌芽がすでに始まっていた。そんなファンキーなエピソードが序盤から目白押しだ。
高校1年時の武勇伝にもワクワクさせられる。小林監督自身は不良ではなかったものの(弟は元暴走族)、タッパのでかい暴力主義者のオオグマ先輩が無性に気に入らなくなり、毎日のように睨みつけていたところ、「なんだてめぇ?」と校舎裏でタイマン対決することに。一瞬ビビリながらも、「一度イモを引いたやつは一生イモを引く」という想いが頭をよぎり腹を括ってみせる。深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズの影響と思われる。オオグマ先輩の「進学受験があるから、顔はなし」という一方的な変則ルールの前に小林監督は破れるものの、どこか男のロマンを感じさせるじゃないですか。この度胸のよさは、不良や暴走族を相手にした自主映画づくりや、間宮祥太朗ら人気キャスト&プロのスタッフを見事に使いこなした商業デビュー作『全員死刑』でも存分に発揮されることになる。
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