家族に愛された記憶のない人へ捧ぐ至高の処方箋! カルト王の輝く青春『エンドレス・ポエトリー』
#映画 #パンドラ映画館
ホドロフスキー監督が生まれ育ったチリは戦前から長きにわたって軍事独裁政権が続き、父親が医学の道に進むように強要したのは息子の身を心配してのことだった。実際、チリの国民的詩人パブロ・ネルーダは1950年代にイタリアへの亡命を余儀なくされている。だが、劇中のアレハンドロは父親が束縛しようとすればするほど、奔放に創作の世界へと打ち込んでいく。生きることに絶望していた親友の詩人エンリケ(レアンドロ・ターブ)には、「詩人なら、現実を異なる視点で見るんだ」という言葉で励ます。アレハンドロにとって詩の創作は、シビアな現実を見つめ、暗い未来を照らすための灯火でもある。ままならない現実社会から目をそらすのではなく、詩人として、そして映画監督として目の前に横たわる問題を咀嚼し、ワンステージ上の創作の世界へ押し上げていく。
やがてアレハンドロは、より広い世界とさらなる自由を求めてパリへ旅立つことを考え始める。でもフランス語が話せず、知り合いがひとりもいない異郷で果たして生きていけるのか。躊躇する若き日の自分自身の背中を、白髪姿のホドロフスキー監督が現われ、「生きることを恐れるな」と力強く後押しする。
生を祝福する赤い精霊たちと黄泉の国からの使いであるガイコツたちとが入り乱れて群舞するクライマックス。新しい世界へ旅立とうとするアレハンドロの前に、ずっと嫌いだった父親が立ちはだかる。「お前のことが心配だったんだ。家に戻ってきて、家業を手伝ってくれ」と息子アレハンドロを引き止めようとする。足元にすがりつく父親に対し、大人になったアレハンドロはこんな言葉を残す。
「父は何も与えないことで、私にすべてを与えてくれた。父は誰も愛さないことで、私に愛の必要性を教えてくれた」
アレハンドロ・ホドロフスキー監督は、不仲だった父親の存在を映画の中で受け入れることを果たした。家族という名の呪縛からようやく解き放たれたホドロフスキー監督。彼の冒険旅行はこれからまだまだ続く。
(文=長野辰次)
『エンドレス・ポエトリー』
監督・脚本/アレハンドロ・ホドロスキー 撮影/クリストファー・ドイル 音楽/アダン・ホドロフスキー 衣装/パスカル・モンタンドン=ホドロフスキー
出演/アダン・ホドロフスキー、パメラ・フローレス、ブロンティス・ホドロフスキー、レアンドロ・ターブ、イェレミアス・ハースコヴィッツ、フリア・アベダーニョ、バスティアン・ボーデンホフェール、キャロン・カールソン、アドニス、伊藤郁女
配給/アップリンク 11月18日(土)より新宿シネマカリテ、ヒューマントラスト有楽町、アップリンク渋谷ほか全国順次公開
11月22日(水)~30日(木)、渋谷アップリンク・ギャラリーにて写真展「菊池茂夫が撮るホドロフスキー」を開催。入場無料。
(C)2016 SATORI FILMS, LE SOLEIL FILMS Y LE PACTE
photo:(C)Pascale Montandon-Jodorowsky
http://www.uplink.co.jp/endless/
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