エマ・ワトソン嬢による“人類補完計画”が発動!! 『ザ・サークル』は理想郷か、ブラック企業か?
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SNS上での人気者となったメイは社内でも発言力を増していく一方、メイのもとから去っていく人たちもいる。メイが実家にテレビ電話をしたところ、元気になった両親はSEXの真っ最中だった。娘にSEXを見られただけでも気まずいのに、その映像はリアルタイムで世界中に流れてしまった。メイからの連絡に両親は応えなくなってしまう。大学時代の親友アニー(カレン・ギラン)はメイにサークル社への転職を勧めてくれた恩人だが、サークル社でのポジションをメイに奪われ、職場から去ってしまった。幼なじみのマーサー(エラー・コルトレーン)はSNSを嫌っており、音信不通となる。でも、メイは平気だった。なんせ、1,000万人を超えるフォロワーがメイの味方だったから。
理想社会として描かれるSNSの世界だが、そこで持ち上がるのは同調圧力という問題。Facebookでみんなが「いいね」を押していると、自分も「いいね」しないといけないような強迫観念にとらわれることがあるが、メイが実践するSNSでも同じ現象が起きてしまう。「全人類がサークルに加入し、ひとつに繋がる」という壮大なサービス〈ソウルサーチ〉のプロジェクトリーダーに選ばれたメイは、〈シーチェンジ〉の小型カメラとネットワーク力によって、指名手配中の犯罪者や行方不明者をたちどころに発見してみせる。この〈ソウルサーチ〉が本格的に普及すれば、人類は一体化し、神にもなれる。あるユーザーが、メイと幼なじみのマーサーがケンカ別れしたままなことを思い出し、〈ソウルサーチ〉の力を使って、メイとマーサーとの感動的な再会&仲直りを提案する。善意から発せられたこのアイデアは、膨大な数の「いいね」を集め、SNS上で巨大なうねりとなっていく。システムの推進者であるメイも、孤独の中に安らぎを見出していたマーサーも、想像を絶する善意の波に呑み込まれていく。
この世界はほんの少し視点を変えるだけで、まったく別なものに見えてくる。メイたち新入社員を熱狂させていたカリスマ経営者のベイリーだが、部外者には新興宗教の教祖のようにも映る。ベイリーは神の奇跡の代わりに、SNSという新しい聖典を若い信者たちに与えた。完全なる民意の反映、透明化された社会を実現させるはずだった〈ソウルサーチ〉だが、全員参加を強要する新しいファシズムの誕生だった。誰かにとってのユートピアは、別の誰かにとってのディストピアになりかねない。メイが夢見たSNSと実生活をリンクさせた理想世界は、システムを運営する側にとっても非常に便利で、都合のいいシステムでもあることを覚えておきたい。
(文=長野辰次)
『ザ・サークル』
原作・脚本/デイヴ・エガーズ 監督/ジェームズ・ポンソルト
出演/エマ・ワトソン、トム・ハンクス、ジョン・ボイエガ、カレン・ギラン、エラー・コルトレーン、パットン・オズワルト、グレン・ヘドリー、ビル・パクストン
配給/ギャガ 11月10日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
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