映画愛をむさぼる悪徳プロデューサーは実在する!? 地方ロケの内情を映画化した『エキストランド』
#映画 #インタビュー
■映画の現場で起きるトラブルのあれこれ
──劇中で描かれている映画製作にまつわるトラブルは、実際に起きていること?
田中 映画的に誇張はしていますが、ほぼ起きていることだと思います。映画をめぐるトラブルのいちばんの原因は、外側から見た映画業界の華やかさと、そのイメージとは裏腹な貧しい製作内情とのギャップから生じていると思うんです。国内の映画の製作本数は年々増えていますが、一部のヒットしたメジャー系と赤字続きのインディペンデント系との格差がますます進んでいる状況。でも、映画業界の内情にあまり詳しくない人は「映画はすごい」という印象を持ち、映画のロケ地になれば、日本国中で話題になると思い込んでしまう。映画って、今もある種の魔力を持っているんだと思いますね。吉沢悠さん演じる駒田プロデューサーは、そんなギャップに付け込んでやりたい放題やってしまうわけです。
──プロデューサーの駒田は、ずっと新作が撮れずにいる石井監督(戸次重幸)を起用し、製作費100万円で映画を撮らせようとする。ピンク映画は一本の製作費が300万円だと聞きますが、一本100万円は安すぎませんか。
田中 100万円は、あまりにも安いですよね(笑)。1,000万円くらいだとインディペンデント映画としてリアルな数字かもしれません。坂下監督の「映画業界じゃない人が観ても、ちゃんと安すぎるとわかる数字にしたほうがいい」という意見もあって、映画の設定は100万円にしました。実際の『エキストランド』は製作費1,000万円以上ですが、インディペンデント映画で製作費1,000万円を回収するのは大変です。チケット代1,000円として、1万人を動員しても興行収入は1,000万円。それを劇場と映画とで分けます。映画館に毎日100人を呼び込み、それが100日間続いても赤字になるわけです。ほとんどのインディペンデント映画は製作費を回収できていないんじゃないかと思います。今回の『エキストランド』は、自分たちがやりたい映画をつくるために出資者は募らずに、完全なインディペンデント作品として製作しています。本当にしんどかった。
──悪徳プロデューサーの駒田は「脚本の善し悪しは一般人にはわからないだろう」と高を括って、ロケ先で無茶振りをする。これはありうる?
田中 FCには3要件というのがあり、その中のひとつで、撮影の規模や内容で優遇や拒否することは禁止されているんです。予算規模が小さいとか、学生映画だからという理由では断れないことになっています。県や市の職員がFC業務をやっていることも多いので、ロケ地のマイナスイメージになる内容だと受けてくれないこともあると思うんですが、脚本が面白いかどうかということは判断材料にはならない。それにFCに申請する際、まだ脚本が完成しておらず、企画書段階で申し込むことが多いと思います。だから企画書にいいことばっかり並べれば、通ってしまう可能性があるでしょうし、脚本がほとんど人目に触れないまま、撮影が始まることもあるようです。でも、だからといって、相手を騙すようなことはしちゃダメですよね。映画製作者とFCは信頼関係で映画をつくっていくわけですから。
──劇中ではエキストラをめぐるトラブルも次々と起きる。エキストラ100人集めるのは、低予算映画では容易なことではない。
田中 人口の小さな町では大人数を集めるのは難しいと思います。映画の撮影現場はスケジュールが押して食事休憩が2~3時間遅れるのはよくあることですが、エキストラとして参加した人でも自分たちがぞんざいに扱われているかどうかはスタッフの対応からすぐわかると思います。スケジュールが押している場合は、きちんと状況を説明するとか、そういうことがあるかないかでわかりますよね。浜松のFCで聞いた話ですが、園子温監督の『新宿スワン』(15)の歌舞伎町シーンは浜松でロケ撮影されたんですが、ロケ日が地元のお祭りと重なって、「沢尻エリカや山田孝之が来ている」と野次馬が集まって危険な状態になり、撮影が一時中断したそうです。ニュースにもなっていました。このとき撮影のために集まっていたエキストラたちがTwitterで「撮影中止」という情報を拡散し、騒ぎが収まってから再び集まって、撮影を再開したそうです。スタッフとエキストラとの信頼関係を感じさせる、いいエピソードだなと思いました。『エキストランド』では「信州上田フィルムコミッション」に協力してもらい、たくさんの上田市の方たちにエキストラとして参加してもらいました。こういう作品を撮っている中で、劇中のようなトラブルが起きてはシャレにならないので、作品内容を事前に丁寧に説明することは心掛けました。例えば、田んぼの中で泥だらけになるシーンで「汚れが目立つ衣装のほうがいいですよね」と、わざわざ白いシャツで来てくれたエキストラの方もいらっしゃいました。エキストラのみなさんに撮影を楽しんで帰ってもらえて、うれしかったですね。
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