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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 伝説のホラー映画の撮影現場が地獄
オワリカラ・タカハシヒョウリの「サイケデリックな偏愛文化探訪記!」

追悼・トビー・フーパー! 伝説のホラー作品『悪魔のいけにえ』の撮影現場は、映画以上の地獄だった!!

 

3、映画以上の恐怖! 地獄の「夕食シーン」

 

 極め付けは、映画の中でも重要シーンとなるソーヤ一家の「夕食シーン」だ。このシーンの撮影の時点で、スケジュールは押しに押し、ここは数十時間ぶっ通しでの撮影となった。だれもが疲労困憊のうえに、不幸なことに机の上にはニワトリの頭を使ったオブジェが置いてあった。テキサスの真夏の日中、光が入らないように密閉された室内は50度以上あり、オブジェは次第に腐り、悪臭を生じ始めた。照明の高熱にさらされた骨も焦げて、ヒドい臭いだ。換気する時間の余裕などあるはずもない。地獄の出来上がりだ。スタッフは次々具合が悪くなり、外に出て吐いた。さらに予算がなく衣装の代えがないので、演者はずっと同じ衣装を着ていた。特にレザーフェイス役のガンナー・ハンセンの衣装は1カ月以上洗うことができず、とんでもなく臭かった。メイクのドロシーは、もっとも印象に残っているのは「みんなの体臭のひどさ」だという。さらに、そこに追い打ちをかけたのが「動物の死体事件」だ。

「家の周りに動物の死体を並べよう!」と考えていたトビーとロバートは、動物病院から数体の動物の死体を手に入れた。しかし腐ってきたので、焼くことにした。トビーは、「ぜんぶなくなると思った」。しかし、燃料が足りなかったのだ。生焼けになった死体は強烈な悪臭を発し、その煙が撮影中の家の中に流れ込んできた。中と外の悪臭の挟み撃ちに襲われた撮影現場は、さらなる地獄と化した。それでも役者とスタッフはこのシーンをやりとげ、映画の完成までこぎつけた。実際にこのシーンは悪臭が匂いたってくるような鬼気迫る出来となっているのだ。

 

4、まさにいけにえ! レザーフェイス役のギャラは1万円だけ!?

 

『悪魔のいけにえ』といえば、レザーフェイスだ。犠牲者の人間の皮をかぶってチェーンソーを振り回す殺人鬼。しかし、どうやら子どものような精神を持っているという、数多くの殺人鬼ムービースターの中でも特異なマスターピースである。レザーフェイスを演じたガンナー・ハンセン、彼の無言の演技なくしては、これほどの素晴らしいキャラクターにはならなかっただろう。

 ガンナーは、もともと決まっていた役者が泥酔してモーテルから出てこないので、代役として雇われた。テキサスの灼熱の真夏で、32日間、毎日16時間に及ぶ撮影を彼はやりきった。1年以上の編集を経て、映画は公開され、「関係者の誰もが認められると思っていなかった」という大方の予想を裏切り、評論家の高い評価を受け初登場3位を記録した。興行収入は、何百万ドルにも達した。しかしどういうわけか、なかなかギャラが支払われなかった。

 レザーフェイスを演じたガンナーも、大ヒットで高額の配分をもらえることを期待していた。そして待ちに待った最初のギャラで支払われたのは、47ドルだった。信じられないことに、日本円にして1万円ほどだ。

 実は『悪魔のいけにえ』は、なかなか配給会社が見つからず、公開すら危ぶまれていた。そんな中、ブライアンストン社という配給会社が『悪魔のいけにえ』を買って公開することとなった。公開が決まり関係者は喜んだ。その会社が、「マフィアの会社」だと知るまでは。

 公開後に収益から権利分が配分されたが、何百万ドルという収益から彼らに支払われたのは1%にも満たない5,000ドルだった。マンガのような話だが、彼らはマフィアの会社に権利を売ってしまったのだ。簡単に言えば、とんでもない悪徳会社に騙されたのである。

 それだけでなく、撮影中に予算が尽きたトビーと脚本家のキムは、撮影を続けるために彼らの権利をすでに売っていた。そんなわけで、後にブライアンストン社を訴えて示談金が手に入れるものの、誰もあの過酷な撮影と、歴史的評価から、大金を手にすることはできなかった。本当の地獄は、公開後に待っていたのだ。真に人を食い物にしている奴らは現実世界の方にいた……という、出来すぎたオチでこの原稿を終わりにしたい。

 ちなみに、この一件があったからか、それ以降のガンナー・ハンセンは常にギャラのことでモメているイメージがある。『悪魔のいけにえ2』も『3』も、レザーフェイス役のオファーがあったが、ギャラの折り合いがつかず出演していない。ファンとしては、もう一度チェーンソーを振り回すチャーミングな元祖レザーフェイスが見たかったところだが、第1作の資金トラブルを知った今となっては「ギャラにこだわるのも仕方ないな……」と思う部分もある。そんなガンナー氏も、トビー・フーパーに先立つこと2年前に他界している。

 

●タカハシ・ヒョウリ
“サイケデリックでカルトでポップ”なロックバンド、オワリカラのボーカル。たまにブログでつづる文章にも定評あり。好きなものは謎、ロック、歌謡、特撮、漫画、映画、蕎麦。
HP:http://www.owarikara.com/
ブログ:http://hyouri-t.jugem.jp/
Twitter:https://twitter.com/TakahashiHyouri?ref_src=twsrc%5Etfw

最終更新:2017/11/08 11:35
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