ダメ人間の肥大化した承認欲求が巨大怪獣に変身!? アンハサ主演作『シンクロナイズドモンスター』
#映画 #パンドラ映画館
初代『ゴジラ』(54)は原水爆がもたらす恐怖のメタファーだったように、庵野秀明総監督の『シン・ゴジラ』(16)は制御不能状態に陥った原発事故のメタファーとして東京に襲い掛かった。ポン・ジュノ監督の『グエムル 漢江の怪物』(06)は韓国に駐留し、化学薬品を垂れ流す米軍基地に対する怒りのメタファーだった。映画の中の怪獣たちは、その時代を生きる人々の心の中に潜む浄化されない衝動としてスクリーン上で暴れ回る。では、ナチョ監督が本作に登場させた巨大怪獣や巨大ロボットはいったい何のメタファーなんだろうか?
ナチョ監督が本作で描く巨大怪獣は、放射能や軍事基地よりもっと身近なものの成れの果てだ。NYで夢破れて田舎に帰ってきたグロリアの過剰な自意識、故郷からずっと出ることができなかった幼なじみのオスカーの溜め込んできた承認欲求といったものがモンスター化して、ソウル市街に出現することになる。米国から見れば、地球の裏側にある遠い韓国はネット上のSNS世界と大して変わらない。グロリアやオスカーは日常生活で抱いているストレスを、巨大怪獣・巨大ロボットを操ることで解消しようとする。一度でも巨大化する快感を覚えてしまった自意識&承認欲求はどんどん膨張する一方で、コントロールすることが難しい。やがてこの巨大怪獣と巨大ロボットは、グロリアとオスカーの潜在意識に感応して、ソウル市民を悶絶させる大バトルをおっ始める。
東宝からゴジラキャラクター使用のNGを出されたことからデザイン変更された巨大怪獣だが、顔の造形は『ウルトラマン』(66~67)の第1話「ウルトラ作戦第一号」に登場した宇宙怪獣ベムラーにちょっと似ている。ちなみに、大人になれずにいる主人公たちの潜在意識が大怪獣を生み出すという内容は、二次元怪獣ガヴァドンが登場した『ウルトラマン』の第15話「恐怖の宇宙線」(実相寺昭雄監督!)を彷彿させる。その一方、破壊される街は『ゴジラ』シリーズで何度も破壊された東京ではなく、お隣の韓国ソウルに変更。そのため、ますますシュール度が増したかっこうだ。
肥大化して暴れ回る自意識や承認欲求にはどう対処すればいいのか。この巨大怪獣、うまく飼い馴らすのはけっこー面倒である。いちばんの安全策は、SNSと同様に酔っぱらった勢いで公園には立ち入らないで、ということだろう。
(文=長野辰次)
『シンクロナイズドモンスター』
製作総指揮/ナチョ・ビカロンド、アン・ハサウェイ
監督・脚本/ナチョ・ビカロンド
出演/アン・ハサウェイ、ジェイソン・サダイキス、ダン・スティーヴンス、オースティン・ストウェル、ティム・ブレイク・ネルソン
配給/アルバトロス・フィルム 11月3日(金)より新宿バルト9、ヒューマントラスト渋谷ほか全国順次ロードショー
(c)2016 COLOSSAL MOVIE PRODUCTIONS,LLC ALL RIGHTS RESERVED.
http://synchronized-monster.com
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