それは、寂しいクリスマスへの序章──“文系デート”の聖地としての「神田古本まつり」
#本 #昼間たかし
「神田古本まつり」「神保町ブックフェスティバル」。それは、本好きにとっては、1年に一度のお祭り。せどりを生業にする者にとっても、利益を上げる好機である。
今年も10月27日~11月5日には、多くの古書店、そして、出版社が在庫を割安で販売した。とりわけ、すずらん通りに広がる出版社の出店は、すでに絶版になっている在庫、あるいは、読むには支障はないけれど汚損などで書店には回せない本などが、一斉にバーゲン価格で売られ、多くの人が群がっていた。
基本、日祝日は休業の周囲の店も、この時ばかりは、かき入れ時である。中でも、老舗喫茶店さぼうる、さぼうる2は大行列。それどころか、普段は閑散としているミロンガやラドリオにまで行列ができている。
神保町界隈の編集者や出入りの人々にとっては、よく使われる馴染みの店。待ち合わせや取材の時に「○○時にミロンガ」などといえば、細かく地図や住所を送る手間もない。
もっとも「いや~ミロンガって聞いてたのに、ラドリオで待ってたヨ!!」ってことは、けっこうある。
そんな地域密着店も、この時期ばかりは観光地とななる。普段、店を使っているような出版人や本好きは少なく、その多くは家族連れ、そして、カップルである。
そう、この祭りは単に本好きや、せどりが群れなす祭りではない。文系カップルにとって、なんとも便利なデートスポットなのである。
ある古書店の前の棚に積まれていたのは、80年代の「POPEYE」や「BRUTUS」など、若者雑誌の山。表紙が破れていたり、ページが折れていて、普段売るには適さないものの投げ売り。これは宝の山だと吟味している筆者の両側は、なぜか中年カップルだった。
「いや~、この時ちょうど学生だったよ」
みたいな会話をしながら、えらくウキウキしている。とりわけ、不倫カップルっぽい中年のほうは、本を手にしていても内容について語るのではない。男のほうが、ひたすらに自分がいかにウィンドサーフィンでイケていたかを語っているのである。
こうした、一種知的なデートを楽しむ余裕がある中年カップルと異なるのが、若者層。よく見ると、手をつないで歩いている男女と、微妙に距離がある男女は半々くらい。
興味深いのは、がぜん後者のほうである。距離感が見える。男にとって、このお祭りは一種の口実。とにかく2人だけで会う機会が欲しい。女の側に、その気があるのか? あるいは、断るのも角が立つと、仕方なしに「参加」しているだけなのか? 人混みの中に、微妙な距離感が揺れ動いている。
筑摩書房、雄山閣、柏書房……さまざまなジャンルの専門書を手に取り、その本の価値を語って、自分の値段を吊り上げようと必死な男。でも、残念だ。隣にいる女のコの瞳は、明らかに違う方向へと泳いでいる。
このお祭りも、今年で58回。いつも、人知れず多くの恋が破れ、寂しいクリスマスの序章がここに始まるのだと、改めて感じた。
(文=昼間たかし)
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