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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 泥沼恋愛の結末は 映画『かの鳥』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.450

子宮という名のブラックホールに吸引される男たち 泥沼恋愛の結末『彼女がその名を知らない鳥たち』

『かの鳥』の登場人物たちは、み~んなクズ人間ばかりで、心の中に埋めがたい空虚さを抱えながら生きている。十和子に「きちんとしなさい」と常に上から目線で説教する姉の美鈴(赤澤ムック)も自身の生活に空虚さを感じているがゆえに、妹の十和子にあれこれと口を出してしまう。男も女も空虚さを忘れよう、逃れようとSEXにのめり込む。元お寺の住職で離婚歴、会社の倒産歴もある異色の経歴を持つ原作者の沼田まほかるに言わせれば、女はみんな子宮という名のブラックホールを体内に抱え込んでおり、男たちはどうしようもなくそのブラックホールに呑み込まれていく運命にあるらしい。そんな宇宙規模の空虚さには、誰も抗うことはできない。

 クズ人間たちが空虚さに呑み込まれないための限界コミュニティーとして成立していた十和子とその周辺の人々だが、十和子を棄てた黒崎が5年前から失踪していたことが明らかになり、辛うじて危ういバランスを保っていたコミュニティーの崩壊が始まる。黒崎はただの出奔なのか、それとも何か事件に巻き込まれたのか。もし事件だとしたら、十和子のことを溺愛する陣治が怪しい。ドロドロの不倫劇が、後半からはサスペンスへと変調していく。冴えないオッサンである陣治が、十和子の目には急に不気味な存在に映って見える。

『かの鳥』は下流人生を歩むサイテーの人々の物語らしく、サイアクの結果が待ち受けている。観た人によっては「はぁ、バッカじゃないの?」と言いたくなるようなエンディングである。だが、その「バッカじゃないの?」と言いたくなる結末は、サイテーの人間が考えうる一生に一度きりの決断でもある。十和子のそれまでずっと空っぽのままだった心は、彼女がその名を知らないものによって初めて満たされることになる。一時的かもしれないが、十和子は自分の心が満たされたことで、心を満たしたものの正体を知る。もう誰も「バッカじゃないの?」とは口にできない。
(文=長野辰次)

子宮という名のブラックホールに吸引される男たち 泥沼恋愛の結末『彼女がその名を知らない鳥たち』の画像4

『彼女がその名を知らない鳥たち』
原作/沼田まほかる 脚本/浅野妙子 監督/白石和彌
出演/蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう、竹野内豊
配給/クロックワークス 10月28日(土)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
(C)2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
http://kanotori.com

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最終更新:2017/10/20 22:30
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