「図書館の選書を理解していない」と、厳しい指摘も……「文庫本の貸し出しやめて」の要望に図書館関係者は唖然
#本 #図書館
「そんなに文春文庫って買ってたかな……」
昨週開催された「全国図書館大会 東京大会」で、文藝春秋の松井清人社長が行った、図書館に文庫の貸し出しを止めるように求める報告が、さまざまな論議を呼んでいる。
大会前から、各所で話題を呼んだ報告は、大会内の「公共図書館の役割と蔵書、出版文化維持のために」をテーマにした分科会で行われたものだ。報告前に「朝日新聞」などで報じられたこともあってか、分科会の会場は立ち見も出る盛況となった。
発表要旨は大会のサイトで読めるようになっているが(http://jla-conf.info/103th_tokyo/index.php/subcommittee/section21)、松井氏は「確たるデータはないが、近年、文庫を積極的に貸し出す図書館が増えている」として「文庫市場低迷の原因などと言うつもりは毛頭ないが、少なからぬ影響があるのではないか」としている。
確かに、これまでも世間でブームになっている話題の本の購入希望が利用者から殺到。図書館が、それに応えて同じ本を大量購入するところもあり、その是否が問われたりもしていた。しかし、松井氏の報告に対して、図書館関係者からは疑問の声のほうが多い。
中には「文春文庫をそんなに揃えている図書館ってあったっけ……」という声も。
「タイトルによっては、最初から文庫本でしか発行されないものもあります。それを貸し出ししないということは、利用者の目的をゆがめることにもなりかねません。そんなことを、出版文化を担う人間がいってよいのでしょうか」
そう話すのは、広島女学院大学特任准教授の西河内靖泰氏。以前は、荒川区内の図書館にも長く勤務していた西河内氏は、この問題を報じた「朝日新聞」10月12日付の記事(http://www.asahi.com/articles/ASKBC4CTMKBCUCVL00D.html)を取り上げて解説する。
この記事では、出版社側の意見を次のように解説している。
「出版社側の調べでは、文庫本の貸し出し実績を公表していた東京都内の3区1市で、15年度、荒川区は一般書の26%を文庫が占めた。ほかの区市では新書も合わせた統計で2割前後に上った」
これに対する、西河内氏はこうだ。
「確かに荒川区では文庫本の貸し出しが目立ちます。というのも、選書にあたって講談社学術文庫や東洋文庫など、学術的な文庫を多く購入してきた実績があるからです」
また、今年3月に、荒川区では中央図書館の機能を備えた「ゆいの森あらかわ」がオープン。この際に移動させた蔵書もあるため、パッと見で文庫本の蔵書が目立つという指摘も。
「図書館は、文庫本に関しても従来よりバリエーションを持った選書をおこなっているものです。そのことをわかっていないのは迷惑ですね」(西河内氏)
出版不況が常態化した昨今、出版業界が解決策を求めて四苦八苦する中での椿事なのだろうか。
(文=昼間たかし)
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