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日刊サイゾー トップ  > 「性具+催眠音声」の可能性の追求
快楽の求道者の終わらない旅路

「アダルトグッズ+催眠音声」の可能性を追求するトランスイノベーションへの誘い

■「変態紳士」という言葉が、ふっと浮かんだ時

 いずれにしても、極めて催眠に没入する体質の私にとっては、おいそれと試すことができないものであることは明らかだった。

 とはいえ、どちらがよかったのだろう。

 インタビューのために会うというのに、テーマとなるものを試していない申し訳なさを感じていた。それと共に、初めて催眠音声を試した頃に、世界から抜け出すことができなくなり、幾度もループし続けた酷い姿も、頭をよぎった。

 待ち合わせ場所でiPhoneでグッズの名前などを確認してから、いつものようにノートを取り出す。質問事項を確認するためである。1から順に番号を記した箇条書きの質問。その文面を復習する間もなく「お待たせしました」と、声をかけてきた男性の姿を見て、私は驚いた。

 いったいどんな人がやってくるのか、さまざま想像を巡らしていた。ところが、想像していたどれにも当てはまらない、

 身体にフィットした、糊のきいたワイシャツを着た爽やかな紳士。その身に纏った空気と、アダルトグッズとのギャップに驚いたのである。

 でも、驚きはまだ続いた。

「喫茶店に席を取っておりますので、そちらに行きましょうか」

 駅周辺の喫茶店というものは、いつでも混雑しているのが当たり前だ。この爽やかな紳士は、自分が先に席を確保してから、私を迎えに来たのである。本来なら、インタビューをお願いした私のほうがやることであり、段取りを間違えていたわけである。でも、この紳士は、ごく自然な体で私を喫茶店までエスコートしたのである。

 私の頭の中で「変態紳士」という言葉が、ふっと浮かんだのは、この時であった。

 でも、単に紳士なのではない。その背後には、催眠音声というディープな世界への情熱が、常に沸いている。その情熱があるからこそ、2つのグッズが誕生したのである。

 それというのも、催眠音声というジャンルにおいて、作り手は他所から仕事として依頼を受けても、応じることは少ないのだという。

「音声作家さんは、シナリオ(スクリプト)を書くことができれば、自分で声優さんに依頼して、編集まで一人で完結してしまいます。だから、依頼する時も人にお願いする時は熱意が必要でした」

 もともと、催眠術に興味があり、自分でも研究をしていたというT氏の催眠音声との出会いは2009年頃のことだった。当時は、まだ催眠音声も黎明期。今のように、同人ダウンロードサイトで販売されているものはほとんどなく、「2ちゃんねる」のスレで、同好の士たちが語り合い、自作を配布しているような時代であった。

 そんな時代から興味を持ち、催眠音声やさまざまなオナニーサポート音声を聞くようになったという。それでも、商業でアダルトグッズと合体した形で催眠音声を展開したいというアイデアに賛同してもらうには、幾多の辛苦もあった。辛苦とは、すなわちグッズと組み合わせた形で、新たな催眠音声の可能性を追求したいという情熱を語ることであった。

「お金ではないメリットと情熱を伝えなければ、賛同してもらうことはできなかったと思います」

 だから、もし自社の製品がもっと話題となっても他社が参入するのは難しいのではないかと、T氏は考えている。

■それは、ビジネスを超えた求道の世界

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 こう書くと、T氏自身が先見の明があった。自分の目に狂いがなかったことを誇っているように思えるかもしれない。けれども、そうではない。このジャンルには、ビジネスとして考えれば無駄としか考えることのできない「求道」の精神がなければ、購入してくれる人々を満足させることなどできないからだ。その「求道」とは、肉体も精神も常識も越え、一歩前に踏み出す勇気にほかならない。

 T氏は、それを当たり前のことだと考え、そして、快楽の求道者なのではないか。そう思ったのは、トランスイノベージョン名義でリリースした2作目の催眠音声「催眠アナニー」に話が及んだ時であった。

 これは音声単体でリリースされてはいるが、アダルトグッズの使用を前提とした作品である。音声を聞きながら、アネロス(エネマグラ)などの前立腺を刺激するグッズを用いて、ドライオーガズムへと達してもらうことを目的とした作品である。

 つまり、作り手側がアナニーや男性におけるドライオーガズムがどういうものであるか理解していなくては、単なるインチキに堕してしまう。ところが、この作品は微に入り際にいたり的確そのもの。ネットで聞きかじったような知識でアナルの知識が乏しい人でも、どうやって挿入するのか。どのように力をこめるのかが、ものすごくわかりやすいのである。

「これは、あなた自身もアナニーの快感を知らないとできないではないですか」

 そう尋ねると、T氏は恥ずかしがることもなく真っ直ぐな目で口を開いた。

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