【書評】地下アイドルブームの核心に迫る一冊 ―姫乃たま『職業としての地下アイドル』
#本 #姫乃たま
例えばアイドルに対しての「恋人はいますか?」「平均月収は?」といったやや突っ込んだ質問や、アイドルファンの年齢や地下アイドルのどんなところが楽しいか、とった質問など、その結果により、「地下アイドル業界」といった世界の全体像が見えてくるのだ。それは、その世界に身を置いていた人ですらも曖昧模糊としていた点を、すっきりさせてくれたとも言える。
何よりも興味深いのは、それぞれの結果に対する著者のコメントだ。
一般の研究者というのは、多くの場合、被験者となる人とは別なものだ。青少年の実態を調査する人はだいたい大人だし、地方の人の暮らしを調査するのは東京のリサーチャーだったりする。
もちろん、それには理由がある。調査する側、分析する側が対象自身であった場合、そこに「主観」というフィルターがかかってしまう。真実を見つけ、正しく解説するには、そのフィルターを外さなければならないのだ。
では、姫乃たまの場合はどうか。
地下アイドルのアンケート結果を評する時、彼女の視点は実に冷静で的確だ。それはおそらく、彼女が地下アイドルであるとともに、ライターという仕事をしていることが大きいだろう。自分の中にある、感情や経験を客観的に見つめ文章にする、その類まれなる才能によってこそ、この本は成り立っている。
アイドル側からの視点と、それを正しく世間の人に伝えるという使命を持ったライターとしての視点。それがうまく書き分けられてていて、真実に近づいていくような感覚が心地よい。
何より、今や空前のアイドルブームといわれる中、その中のいちジャンルである「地下アイドル」にスポットを当てたこの本の意義は大きい。いわゆる「アイドルファン」としてさまざまな思いを抱いてきた私としても、書いてくれたことに対して感謝をしたい気持ちだ。
そして、この本の一番の魅力を言わせてもらうなら、さまざまなデータや実績をもって地下アイドル業界を語る姫乃たまの言葉の向こうに、その世界への限りない愛情やファンへの思いが透けて見えることだ。今までの経験を通し、つまずいたり、倒れたり、たくさんの葛藤もあったと思う。しかし、それらを超えて地下アイドルを続けた果てに見えた景色、それがとても素晴らしいことであったことを、姫乃たまは伝えたいのだろうと思った。
実用書としてこの本を読み、知識欲を満たした後は、ぜひ、姫乃たまの中に内在する、暖かい思いと人に対する愛情を感じ取ってもらいたい。きっと、世界が少しだけ変わって見えるはずである。
(文=プレヤード)
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