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ドラマ評論家・成馬零一の「女優の花道」番外編

完全覚醒前夜! 中村ゆりかの“秘めたる狂気”が心をえぐる深夜ドラマ『ぼくは麻理のなか』

スターダストプロモーション公式サイトより

 フジテレビ系で月曜深夜に放送中の『ぼくは麻理のなか』は、心をえぐる痛々しいドラマだ。

 本作はもともと、フジテレビオンデマンドで放送されていた配信ドラマ。物語は、鬱屈した感情を抱えて引きこもり生活を過ごしていた大学生の小森(吉沢亮)が、“コンビニの天使”と呼んで、密かに好意を抱いていた女子高生の吉崎麻理(池田エライザ)の体の中に意識が入り込んでしまうところからスタートする。

『ぼくは麻理のなか』は、入れ替わりモノというジャンルに属している作品だ。

 古くは大林宣彦監督の映画『転校生』(1982)、最近では新海誠監督のアニメ映画『君の名は。』(2016)など、若い男女の肉体が入れ替わるという物語は青春ドラマの定番なのだが、本作が面白いのは、小森と入れ替わった麻理の精神が小森の肉体に宿っておらず、行方不明となっていることだ。

 麻理(の肉体を持った小森)が自分のアパートで対面した小森が、普通の大学生として別人のように存在しているという導入部は、極めて不穏である。

 原作は『惡の華』(講談社)等の作品で知られる押見修造が「漫画アクション」(双葉社)で描いていた同名漫画。

 思春期の少年少女の鬱屈した感情を描かせたらピカイチの描写を持つ作家の漫画を映像化しているだけに、序盤で描かれる、小森がアパートで一人ゲームをしながら鬱屈していく様は、とてもリアルで見ていていたたまれない気持ちになる。

 好きな女子高生と肉体が入れ替わった後も、楽しいエッチなイベントがいくらでもありそうなのに、男子生徒と一緒にカラオケに行ったら同級生の女子生徒から「人の彼氏に手を出すな」と怒られて孤立したり、男子生徒に強引に部屋に上がられてキスされるなど、良いことがひとつもない。内面が鬱屈していると、かわいい女子高生と肉体が入れ替わっても、鬱屈したまんまなんだと思うと切なくなってしまう。

 主演の池田エライザは、グラビアアイドルならではの色っぽさと、中に男の意識が入っているという落差をうまく出していて、麻理を好演している。一方、異様な存在感で、目が離せないのは、中村ゆりかが演じている柿口依だ。

 依はメガネをかけた陰気な雰囲気を醸し出している美少女。麻理のことを偏執的に追いかけていて、いち早く麻理の中に別の人間がいることに気づく。

 その後、麻理が元に戻れるようにいろいろと協力してくれるのだが、男性に対して嫌悪感を持っているため、麻理の中にいる小森に対しては、汚物を見るかのような対応をしている。

 小森も依も、人とコミュニケーションをするのが苦手で、鬱屈した感情が高ぶると早口になる場面があるのだが、依が麻理(の中にいる小森)を責め立てる場面の刺々しい口調は、圧巻の一言。世界のすべてを拒絶して、麻理のことを崇拝する眼鏡美少女というビジュアルに一発でやられてしまった。

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