犯罪史に残る殺人ピエロがモデルの大ヒット作! トラウマが具象化して襲い掛かる『IT/イット』
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そいつ(IT)は27年周期で街に現われ、 トラウマを抱えている人間に襲い掛かる。“ホラー小説の帝王” スティーヴン・キングの代表作『IT』(文春文庫)は、 1990年に米国でテレビドラマ化され、 当時のホラーファンを魅了した。日本でも『IT/イット』 の邦題でビデオリリースされ、カルト的人気を博している。 それから27年の歳月を経て、今度は映画版『IT/イット“ それ”が見えたら、終わり。』として、そいつは甦った。 R指定作品ながら全米ではホラー映画の金字塔『エクソシスト』( 73)を上回る興収成績を収めるメガヒット作となっている。
なぜゆえ、スティーヴン・キングが生み出した『IT』は、 時代を経ても人々の心を揺さぶり続けるのだろうか。 鬼ごっこのことを英語では「Tag」と言い、鬼は「It」 と呼ばれる。ITとは不定形な怪物であって、 いつ誰がITになるのか分からない。 幼い子どもたちは鬼ごっこが大好きだが、 劇中のITは逃げ回る子どもたちがそれぞれ抱えるトラウマに姿を 変えて執拗に追い掛けてくる。 ITは子どもたちの心の傷を塞いでいるカサブタをむしり取り、 笑いながらその生傷を舐め回す。子どもたちが怯え、苦しむほど、 ITはその子どもを美味しくいただくことができるからだ。 こんな怪物、一度遭ったら二度と忘れられない。
そんな不定形な恐怖であるITに、スティーヴン・ キングが与えたビジュアルはサーカスにいるピエロだった。『 IT/イット』を観た後では、 マクドナルドに置いてある人形が視界に入ってきただけで恐ろしく 感じてしまう。実は子どもたちを脅かすピエロのペニーワイズは、 実在の人物がモデルとなっている。 1970年代の米国を震撼させた“殺人ピエロ”ことジョン・ ゲイシーというシリアルキラーだ。 資産家で街の名士でもあったジョン・ ゲイシーは福祉活動にも積極的で、 ピエロの扮装をしてはパーティーに集まった子どもたちを喜ばせて いた。だが、 その陰ではお気に入りの少年を自宅の地下室に誘い込み、 性的虐待を加えた挙げ句に殺害し、 床下に隠すという凶行を繰り返した。ジョン・ ゲイシーによる犠牲者は33名にも及ぶと言われている。『IT/ イット』 の子どもたちが暗い地下室や下水道を怖がる恐怖の水脈は、 沼地に建てられたジョン・ ゲイシーの自宅の死臭が漂う床下と結びついているのだ。
映画版『IT/イット』の舞台は、 1980年代の米国の田舎町デリー。スティーヴン・ キング作品でお馴染みキャッスルロックと同じく架空の街だ。 繊細な心を持つ少年ビル(ジェイデン・リーバハー)は、 弟を亡くしたことで吃音症がひどくなってしまった。大雨の日、 弟のジョージーはひとりで遊びに出掛け、 そのまま二度と帰ってこなかった。 ビルは弟の失踪を自分の責任だと思い詰めている。転校生のベン( ジェレミー・レイ・テイラー)は図書館に通う温厚な性格だが、 不良たちから体型のことで虐められる。 父親と2人暮らしの少女ベヴァリー(ソフィア・リリス)は、 父親が自分のことを女として見るようになったことが怖い。 ベヴァリーがバスルームに入ると、 排水溝から赤い血が溢れ出してくる。 ベヴァリーが見る大量の血は、初潮の隠喩だろう。 陽気なピエロの姿をしたペニーワイズ(ビル・スカルスガルド) は、子どもたちの潜在意識の中に潜り込み、 それぞれが抱えているトラウマに変身して、子どもたちが苦しみ、 顔を歪める様子を眺めて大喜びする。
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