ホロコースト犠牲者と加害者の孫同士が禁断の愛!? タブーを破る『ブルーム・オブ・イエスタディ』
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ユダヤ人大量殺戮をリアルに再現した『シンドラーのリスト』のスピルバーグ監督はユダヤ系米国人であり、『戦場のピアニスト』のポランスキー監督は母親を強制収容所で亡くし、自身も収容所送りになる寸前のゲットーから逃げ出した体験を持っている。どちらも当事者だから描くことができた、シリアスなドラマだった。その点に関しては、『ブルーム・オブ・イエスタディ』も面白半分で作られた企画ではない。クリス監督自身がドイツ史について調べていく中で、ラトビアのユダヤ人虐殺にクリス監督の祖父が関わっていたことを知り、大きな衝撃を受けたことが本作の企画の発端となっている。以下はドイツにいるクリス監督からのスカイプでのコメントだ。
「祖父が戦時中にSSだったことは知っていました。でも、まさか虐殺に直接的に関わっていたとは、僕も僕の家族も思いもしなかった。祖父は生前、SSだった頃の話をすることはありませんでした。あるとき、僕の友人が渡してくれた歴史書を開いていたら、祖父と同じ名前が出ていたので、気になって調べてみると、それは僕の祖父で、虐殺に関わっていたことが分かったんです。そのときは、すでに祖父は亡くなっていたので、祖父の口からそのことを聞くことはできませんでした。映画の中のトトは祖父が虐殺に加担していたことを知り、贖罪の意識からホロコーストの研究を始めています。主人公のトトは僕自身がモデルであり、この映画は僕の家族の物語でもあるんです。もちろん、映画では誇張されたキャラクターになっているので、僕はトトほどエキセントリックじゃないし、トト夫婦のようなSEXについての深刻な問題も抱えてはいません(笑)」
ナチスの戦争犯罪と主人公たちのSEXに関わる問題が、ひとつの作品の中で同時に語られる点も非常にユニーク。クリス監督いわく「死と生にまつわる映画」とのことだ。また、フランスからドイツにやってきたザジは、ベンツ車で空港まで迎えにきたトトに向かって「祖母はベンツのガス・トラックに乗せられて死んだのよ」とベンツ車に乗ることを拒むなど、ドイツの自動車メーカーをネタにするなどのブラックジョークも散りばめられている(※実際のガス・トラックはベンツではなく、ザジの思い込み)。テレビ放映されることを前提に作られている日本の製作委員会方式の映画では、まずありえないギャグだろう。
「ベンツのギャグは欧州では大ウケでした。シナリオ段階で弁護士に確認してもらって、法的に問題にならないギリギリのところを狙ったんです(笑)。もちろん、この映画は製作準備段階では、多くの人たちから『クレイジーな企画だ』と言われ、資金集めはすごく難航しました。でも、この映画は僕にしか撮れない作品であり、僕が歴史について充分な知識があることを理解してくれた人たちの協力を得て、完成させることができたんです。映画を観た人の中には抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、でも賛否両論あったほうが『よし、これからもっと頑張ろう』という気に監督はなるもの。うれしかったのは、ロシアで上映された際にユダヤ系の団体から『ドイツ人がこれまでにない新しいスタイルでホロコーストに向き合った作品だ』と評価してくれたことですね」
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