心の障害をバリアフリー化するSEX革命の始まり。非感動ポルノ『パーフェクト・レボリューション』
#映画 #パンドラ映画館
本作は熊篠氏の実体験をベースに、ポップで過激でファンシーなラブストーリーとして展開していく。クマ(リリー・フランキー)は車椅子がないと生活できないが、かわいい女の子がいれば口説かずにはいられない性欲旺盛なエロ中年である。障害者は怪物でもなければ、聖人君子でもないんです。講演会でのクマの本音まじりの軽妙なトークにうなずく女の子がいた。髪をピンク色に染めた風俗嬢のミツ(清野菜名)はクマのもとに走り寄り、「私、クマピーのことが大好き!」と熱烈にアピールする。
エロいことは大好きなクマだが、40歳を過ぎ、重たい恋愛には慎重だった。障害者が結婚し、家庭を持ち、子どもを育てるには、高いハードルが存在する。性のバリアフリーを訴えているクマ自身が、障害者を取り巻く現実問題のシビアさを痛感していた。しかも、クマは中学生のときに大手術を受け、股間節をプロテクターなしでレントゲン撮影された過去から、生殖への不安も抱えていた。だが、そんなクマの心のハードルを、天真爛漫なミツは軽々と飛び越え、心の琴線部分へとダイブしてくる。「あなたと私みたいな不完全なもの同士が幸せになれたら、それってすごいことだと思わない?」
パリを舞台にした障害者コメディ『最強のふたり』(11)の主人公たちのように、クマとミツは電動車椅子に2人乗りして、公道を暴走する。クラブでは車椅子をクルクルと回して、2人だけのオリジナルダンスを踊る。銀杏BOYSの至高のラブソング「BABY BABY」がフロアに流れる。このとき、世界はクマとミツの2人だけのものだった。そして夜の公園で、2人は熱いキスを交わす。ミツがクマの上に股がる官能シーンが、甘く甘く描かれる。
2人の過激な恋の行方を、クマの独身生活を長年支えてきた介護士の恵理(小池栄子)は表向きは笑顔で、でも内心は不安げに見守っていた。恵理が予感したように、クマとミツのラブロマンスは簡単には成就しない。クマは実家で行なわれた法事にミツを連れていくが、幼い頃からクマを見てきた親族の反応はまっぷたつに分かれる。クマの面倒を看てくれる若い女性が現われたことを喜ぶ肯定派、障害者が結婚して子どもを作ることのリスクを危ぶむ否定派に割れ、法事の席は大荒れとなる。また、それまでぶっ飛んだ言動でクマを驚かせてきたミツは、人格障害を抱えていることも発覚する。ミツが自殺衝動や暴力衝動に駆られるのを、車椅子に乗ったクマは防ぐことができない。甘く盛り上がったラブロマンスほど、醒めた後の疲労感・虚無感はとてつもなく大きい。
見た目は普通の女の子であるミツが実は内面に障害を抱えていたという設定は、映画ならではの脚色。映画のラストもまた、現実とは異なるエピローグが用意されている。生まれも性別も、職業も能力も、お金も年齢も、本当の幸せには関係ない。そのことを世界に向かって2人で証明したい。劇中のクマとミツは、パーフェクト・レボリューションという壮大な夢に向かって新しい一歩を踏み出していく。
有名なSF作家ジュール・ヴェルヌは「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」という言葉を残したといわれている。ヴェルヌのこの言葉が正しければ、クマとミツが夢見るパーフェクト・レボリューションも決して不可能ではないはずだ。
(文=長野辰次)
『パーフェクト・レボリューション』
企画・原案/熊篠慶彦 原案協力/子宮委員長はる 監督・脚本/松本准平
出演/リリー・フランキー、清野菜名、小池栄子、岡山天音、丘みつ子、下村愛、増田俊樹、螢雪次朗、石川恋、榊英雄、余貴美子
配給/東北新社 PG12 9月29日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー
(c)2017「パーフェクト・レボリューション」製作委員会
http://perfect-revolution.jp
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